振動高励起分子における量子カオス状態の統計分光学

• 研究課題/領域番号: 02044038
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 共同研究
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 土屋 荘次 東京大学, 教養学部, 教授 (40012322)
• 研究分担者: LUNDBERG J.K マサチュセッツ工科大学, 化学科, 助手 ; JOST R. ジョセフフーリエ大学, グルノーブル, 主任研究員 ; PIQUE J.P. ジョセフフーリエ大学, グルノーブル, 主任研究員 ; LOMBARDI M. ジョセフフーリエ大学, グルノーブル, 主任研究員 ; JOUVET C. ハ゜リ南大学, 光分子物理研究室, 主任研究員 ; SOEP B. ハ゜リ南大学, 光分子物理研究室, 主任研究員 ; HELLER E.J. ワシントン大学, 化学科, 教授 ; FIELD R.W. マサチュセッツ工科大学, 化学科, 教授 ; 大島 康祐 東京大学, 教養学部, 助手 (60213708) ; 金森 英人 東京大学, 教養学部, 助手 (00204545) ; 山内 薫 東京大学, 教養学部, 助教授 (40182597) ; 遠藤 泰樹 東京大学, 教養学部, 助教授 (40106159)
• 研究期間 (年度): 1990 – 1991
• 研究課題ステータス: 完了 (1991年度)
• 配分額: 5,400千円 (直接経費: 5,400千円); 1991年度: 2,500千円 (直接経費: 2,500千円); 1990年度: 2,900千円 (直接経費: 2,900千円)
• キーワード: 分子振動 / 高励起分子 / van der Waals錯体 / レ-ザ-分光 / 光解離反応 / カオス / 振動高励起分子

研究概要

本研究は、東大教養とMITにおいて別個に進行している振動高励起分子の分光実験を有機的に結合させ、また、フランス・グルノ-ブルのグル-プの理論解析の助力を得て、分子内振動ダイナミックスについて新しい概念の確立を目指すものである。また、研究対象をvan der Waals分子錯体へ拡張するために、フランス・オルセのグル-プと分光実験とその解析について共同研究を行った。
1.励起高励起分子の振動ダイナミックス
(1)MITグル-プは、アセチレンの振動高励起状態の高分解能分光測定を誘導放出励起(SEP)分光法で行い、準位のエネルギ-間隔などの統計分光解析を適用し、振動ダイナミックスがカオス的であると結論した。
(2)フランス・グルノ-ブルのグル-プは、MITグル-プのデ-タをフ-リエ変換して、時間領域スペクトルを求め、すべての準位が完全に相関していないことを示した。つまり、振動モ-ドのうちの一部の運動は準周期的である。
(3)東大教養グル-プは、アセチレンの振動準位を低エネルギ-領域から高エネルギ-まで測定し、大局的な準位構造を把握するべきであると判断し、単一回転振電準位のアセチレンからの蛍光を分光し、その準位エネルギ-を三つの振動モ-ドの量子数の組で表現する努力を払った。その結果、低いエネルギ-領域(約14000cm^ー1以下)では、振動エネルギ-は、量子数の展開式で表現できるが、高エネルギ-側では、二つのCH変角振動モ-ドが非調和結合のために、相互に結合して独立なモ-ドでなくなることを結論した。つまり、局所的なカオス状態が現れると解釈できる。東大教養グル-プの指摘は、「分子の振動ダイナミックスは一挙にカオス的になるのではなく、段階を経て最終的にカオス状態に到達する」というもので、これまでの考え方に一つの整理を与えたものである。
(4)東大教養の上記の提案に基づき、アセチレンのCH変角振動が結合する様子を高分解能分光によって明確にとらえられる実験がMITで計画され、実行された。実験的に信号対雑音比を特に高める努力を払い、S/N=600を達成した。その結果、7000cm^ー1においても本来禁制であるシスCH変角振動の準位への遷移が現れることを発見し、トランスとシスCH変角振動の非調和結合を実証することができた。このことは、振動高励起分子の振動ダイナミックスの情報か低エネルギ-領域の高分解能分光測定によって得られることを意味している。したがって、他の分子の振動ダイナミックスを探る方法論を与えたものとしても評価できる。
2.NO_2の単分子解離反応
(1)東大教養では、NO_2の光解離で生成するO,NOを状態を指定してレ-ザ-誘起蛍光(LIF)の分光法でモニタ-しながらNO_2の励起波長を走査して光解離励起分光(PHOFEX)のスペクトルを測定した。その結果、スペクトルは、線構造を示し、光解離は電子基底状態の励起振動準位を経て起こることが示された。
(2)上記のスペクトルに示される準位構造が、カオス的振動ダイナミックスに対応するかどうかを、フランス・グルノ-ブルのグル-プが高分解能分光の方法で検討した。準位間の非調和性に基づく結合以外に、回転誘起の結合が存在すること、準位の統計をとることによって相関が存在することなどが指摘された。
3.van der Waals分子錯体のRydberg状態
(1)東大教養では、HgAr_2の2段の励起によってHgの6s7s状態の錯体のLIFスペクトルを測定した。その構造について、HgAr^+のイオン殻をRydberg電子が囲み、その外側にArがゆるく束縛されるという描像が提出された。
(2)フランス・オルセでは、HgAr_2の錯体内ポテンシャル2対ポテンシャルの重ね合わせと仮定し、構造と運動の予測を行った。実験・理論の大略は一致している。

研究成果

• [文献書誌] N.Ochi et al.: "Rovibronic level structure of electronically excited acetylene(A ^1A_u) in a supersonic jet" Chem.Phys.152. 319-336 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] P.Dupre et al.: "Anomalous behavior of the anticrossing density as a function of excitation energy in the C_2H_2 molecule" Chem.Phys.152. 293-318 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] J.Miyawaki et al.: "Photofragment excitation spectrum of NO_2 observed through O( ^3P_J) detection" Chem.Phys.Lett.180. 287-292 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] K.Yamanouchi et al.: "Vibrationally highly excited acetylene as studied by dispersed fluorescence and stimulated emission pumping spectroscopy:Vibrational assignment of feature states" J.Chem.Phys.95. 6330-6342 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] M.Momona et al.: "High resolution study of the perturbation in the CO triplet band" J.Mol.Spectrosc.
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] D.J.Jonas et al.: "Intramolecular vibrational relaxation and forbidden transitions in the SEP spectrum of acetylene" J.Chem.Phys.
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] N. Ochi et al.: "Rovibronic level structure of electronically excited acetylene (A ^1A_u) in a supersonic jet" Chem. Phys.152. 319-336 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] P. Dupre et al.: "Anomalous behavior of the anticrossing density as a function of excitation energy in the C_2H_2 molecule" Chem. Phys.152. 293-318 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] J. Miyawaki et al.: "Photofragment excitation spectrum of NO_2 observed through O ( ^3P) detection" Chem. Phys. Lett.180. 287-292 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K. Yamanouchi et al.: "Vibrationally highly excited acetylene as studied by dispersed fluorescence and stimulated emission pumping spectroscopy : Vibrational assignment of feature states" J. Chem. Phys.95. 6330-6342 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M. Momona et al.: "High resolution study of the perturbation in the CO triplet band" J. Mol. spectrosc.(1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] D. J. Jonas et al.: "Intramolecular vibrational relaxation and forbidden transitions in the SEP spectrum of acetylene" J. Chem. Phys.
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K.Yamanouchi et al.: "Vibrationally highly excited acethlene as studied by dispersed fluorescence and stimulated emission pumping spectroscopy:Vibrational assignment of the feature states" J.Chem.Phys.95. 6330-6342 (1991)
• [文献書誌] M.Momona et al.: "High resolution study of the perturbation in the CO triplet band" J.Mol.Spectrosc.
• [文献書誌] D.J.Jonas et al.: "Intramolecular vibrational relaxation and forbidden transitions in the SEP spectrum of acetylene" J.Chem.Phys.
• [文献書誌] 土屋 荘次: "励起分子の量子ビ-ト分光" 分光研究. 41. 3-20 (1992)
• [文献書誌] N.Ochi et al.: "Rovibronic level structure of electronically excited acetylene (A^lA_u) in a supersonic jet" Chem.Phys.). 02%33 (1991)
• [文献書誌] J.Miyawaki et al.: "Photofragment excitation spectrum of NO_2 observed through O(^3P_J) detection" Chem.Phys.Lett.). 02%33 (1991)
• [文献書誌] P.Dupre et al.: "Anomalous behavior of the anticrossing density as a function of excitation energy in the C_2H_2 molecule" Chem.Phys.). 02%33 (1991)