研究分担者 |
TーRAISSI Ali フロリダ太陽エネルギー研究所, 所員
BLOCK D.L. フロリダ太陽エネルギー研究所, 所長
FUNK J.E. ケンタッキー大学, 工学部, 教授
MCKINLEY K. ハワイ大学, 自然エネルギー研究所, 副所長
TAKAHASHI P. ハワイ大学, 自然エネルギー研究所, 所長
堤 敦司 東京大学, 工学部, 講師 (00188591)
亀山 秀雄 東京農工大学, 工学部, 助教授 (10114448)
大矢 晴彦 横浜国立大学, 工学部, 教授 (40017950)
平井 敏雄 東北大学, 工学部, 教授 (50005865)
斎藤 安俊 東京工業大学, 工学部, 教授 (40005236)
BLOCK David フロリダ太陽エネルギーセンター, 所長
MCKINLEY Rob ハワイ大学, 自然エネルギー研, 副所長
TAKAHASHI Pa ハワイ大学, 自然エネルギー研, 所長
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研究概要 |
近い将来,石油を中心とする化石燃料は枯渇に向うと考えられている。そこで非枯渇の更新生燃料として水から水素を製造する技術が注目されてきた。さらに、近年,亜硫酸ガスや窒素酸化物による酸性雨による森林の破壊や炭酸ガスによる地球温暖化による海水面の上昇など地球規模の環境悪化が深刻な問題として浮上した結果,硫黄も炭素も含まないため亜硫酸ガスも炭酸ガスも排出することのない水素が理想的クリ-ンエネルギ-であることが広く認識されてきた。このような状況で,東京大学から提出された熱化学分解サイクルUTー3は水から水素を得る方法として大きな可能性があると考えられ文部省科研費の重点領域研究の1つとしてグル-プ研究が実施されている。そこでは,反応進行に必要な熱エネルギ-として新しい原子炉である高温ガス炉のヘリウムが持つ熱を利用することが想定されている。しかし,熱源として太陽熱が使えるならば全てがクリ-ンで無尽蔵のエネルギ-システムが形成できることになる。この視点から太陽炉による熱エネルギ-利用について経験豊かなアメリカのハワイ大学,ケンタッキ-大学,フロリダ太陽エネルギ-研究所を共同で,太陽炉と結合したUTー3サイクルを用いる水素エネルギ-製造システムの可能性を検討しようと本共同研究が実施された。 天然ガスの水蒸気改質による水素製造プラントは60000m^3/時にも達する大型のものがあるが,太陽熱の集熱規模を考えて化学工業原料用ではなく半導体工業用水素の規模である2000m^3/時の水素製造を想定してシステムの概念設計を行った。鏡面を貼りつめた太陽光集光システム,その反射光を集める集熱システム,UTー3サイクルによる熱化学分解システム,およびケミカルヒ-トポンプを用いる熱回収システムから成る。集熱された熱エネルギ-は,反応サイクル中の2つの吸熱反応系に使用することとして高温水蒸気を作って充填層反応管に通する。太陽エネルギ-を使用する時には常に雨天や夜間の停止,あるいは雲の通過などによる変動が問題となる。本製造プロセスも,この熱源の変動を考慮しながら安定した運転ができるものでなければならない。 水素製造設備が貰う太陽熱は15MWtであり,太陽熱集熱系の効率は約60%と推定されるので,ヘリオスタット集熱システムとしては25MWtを受光することが必要となる。製造システムの操業圧を20気圧とするとき,カルシウム系反応器は直径5.2mとして,充填層高8.8m,一方の鉄系反応器は同じく直径5.2mとして,層高も同じでよい。太陽熱を用いて吸熱反応を2時間行ない,そこから得られる排熱を用いて発熱反応を同じく2時間行なうよう2時間毎の切り換え運転を実施する。 上記条件の下で,800℃の水蒸気を吸熱反応管に導入して熱を与えて反応を進めた時の非定常挙動を解析した結果,太陽熱の変動は蒸気流量の制御で打ち消して十分に安定した状態で運転できることが示された。また吸熱反応系は太陽熱の蓄熱システムとしての機能を持つことも示された。 太陽熱を用いたUTー3サイクルによる水素製造コストの推算はまだ初歩的な段階に留まっている。しかし,太陽熱を用いてアンモニアを製造するとしたアメリカのある試算によれば,太陽熱は設備償却を20年とするとMcal当りで1.3円,5年とすれば5.2円と見積もられている。高温ガス炉のヘリウム熱は同じくMcal当たりで3〜4円とされ,この値に対して水素製造コストは約30〜40円/m^3とされ,十分に天然ガスの改質から得られる水素と走合できるといわれている。したがって,太陽熱による水素製造についても,ほゞ同じ状況が期待できることがわかる。 以上に述べてきたように,本共同研究によって太陽熱利用による水素製造は,技術的にも経済的にも十分に可能なもので工業化する価値があるとの結論が得られた。今後は蓄熱時の温度変化,吸熱と発熱系の切り換え時間中の変化などについて詳細に検討し,また太陽熱コストについても技術進歩を踏まえて再検討することが必要である。また,ある規模での実験が必要であり,日本側・米側ともにその実行可能性の道を探して行こうと考えている。
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