研究概要 |
本研究は,カルフォルニア大学ロサンジェルス校のバ-トン・クラ-ク教授を中心とする,アメリカ,イギリス,フランス,ドイツ,日本の5ケ国を対象とする,大学院教育に関する国際比較研究の一貫として実施された。協同研究開始に先立って,5ケ国代表者の協同討議をもとに,本研究全体を Macroーstudy と Microーstudy の2つのステップに分け,初年度目には Macroーstudy,2年度目には Mieroーstudy,3年度目には相互の調整に焦点を置くことに目途に研究作業に着手することとなった。 まず,昭和63年度においては,各国の研究分担者が自国の大学院について,(1)歴史,(2)大学院制度,(3)学位制度,(4)大学院への選抜制度,(5)大学院卒業者の雇用市場,(6)大学院での指導教育体制などの基本的な事実を明らかにし,一定の共通の枠組みで,国別報告書の草案を作成することとした。昭和63年夏,カルフォルニア大学ロサンジェルス校に5ケ国の代表が集まり,国別報告書をもとに報告を行い,それをもとに共通点の洗い出し,各国の特殊性の抽出を行い,さらに国別報告書を充実する作業を行った。 さらにその際,研究の第2ステップである Microーstudyに関しては,5ケ国ともに共通して,人文科学,社会科学,自然科学のなかから,歴史学,経済学,物理学の3領域を選びだし,それぞれの領域における研究後継者の養成システムの細部についての分析を実施することが合意された。さらにその上,各国の特殊性に着目し,アメリカについては生物学,日本に関しては工学を加えることが申し合わされた。 第2年度である平成元年度には,われわれ日本ティ-ムは,歴史学,経済学,物理学,工学の4領域について,(1)大学院学生の選抜,水準,(2)大学院学生の指導体制,(3)修士論文,博士論文の作成とそれに関する指導体制,(4)大学院課程の修了率とその背景,(5)大学院学生に対する経済的支援制度,(6)大学院学生の研究活動への統合の実態などの諸項目に関して,国別報告書を作成し,平成元年夏,カルフォルニア大学ロサンジェルス校での代表者会議で報告・討論・協議を行った。 平成2年度には,上記2つの国別報告書(合計10論文)の相互の調整,必要項目の加筆・訂正を行い,カリフォルニア大学出版会から公刊すべき最終原稿の完成に努めた。この最終原稿は平成3年3月現在,5ケ国のうち,日本を含む4ケ国に関してはすでに完成しており,残る1ケ国についても,近日中に完成する旨の連絡を受けている。それと平行して,日本の大学院制度の特色についての理解を,他国との比較のなかで深めるため,最も組織的・体系的な大学院教育が実施されているアメリカについての情報を収集するために,2回にわたる現地調査を行った。さらに本研究の協同研究者がこの科研費以外の経費で渡航する機会を利用して,イギリス,フランス,イギリスの大学院制度,最近における改革の動向についての情報の収集に努めた。この成果に関しては,民主教育協会編『現代の高等教育』に,平成2年9月から平成3年1月まで『ヨ-ロッパの大学院改革』というシリ-ズで,5回にわたって報告してある。 本研究によって得られた知見は,概略次の通りである。(1)欧米,日本を含めて,中央政府から大学に向けて支出される科学研究費は,近年の財政難から急速に減少しつつあり,その結果,とくに自然科学の領域での研究の中心は,大学から企業へとシフトしつつある。(2)このことが原因となって,大学院学生に対する経済的支援制度は弱体化し,優れた学生を大学院へと引きつけることが次第に因難となり,さらに民間部門と大学レベルでの教員との待遇面での格差が顕著となり,そのため次代の研究後継者の育成に各国とも,かなり危機的な状況を迎えつつある。(3)大学院学生の指導体制・カリキュラムの面では,アメリカ以外の国はおおむね,構造化が進んでおらず,そのことが大学院在籍期間の延長化と院生の中途退学の増加をもたらしている,(4)しかしながら,こうした状況のなかで,いくつかの大学院を拠点大学院として,集中的に拡充・充実させ,それを起点として,大学院教育の組織化,構造化を目指す政策が採用されはじめている,などである。
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