研究課題/領域番号 |
02044070
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 嘉昭 名古屋大学, 農学部, 教授 (50115531)
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研究分担者 |
山岸 正明 沖縄県ミバエ対策事業所, 研究員
久場 洋之 沖縄県ミバエ対策事業所, 研究員
上宮 健吉 久留米大学, 医学進学課程, 講師 (40080965)
田中 利治 名古屋大学, 農学部, 助手 (30227152)
椿 宜高 環境庁, 国立環境研究所, 総合研究官 (30108641)
ARITA Lorna ハワイ大学, ヒロ校・農学科, 助教授
KANESHIRO Ke ハワイ大学, マノア校・ハワイ進化生物学研究施設, 準教授
KANESHIRO Kenneth Y. Hawaiian Evolutionary Biology Program, Univ. Hawaii at Manoa
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研究期間 (年度) |
1990 – 1991
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研究課題ステータス |
完了 (1991年度)
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配分額 *注記 |
4,900千円 (直接経費: 4,900千円)
1991年度: 2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
1990年度: 2,900千円 (直接経費: 2,900千円)
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キーワード | ウリミバエ / ミバエ / 配偶行動 / 精子競争 / 集団求愛場(レック) / 性フェロモン / 求愛音響 / 不妊化 / 放射線不妊化 / 音響交信 |
研究概要 |
果実・果菜の大害虫であるミバエ類の不妊虫放飼法あるいは雄除去法による防除の発展のためには、配偶行動ならびに精子競争の研究が不可欠だが、従来は殆んど研究がなかった。またハワイと日本南西諸島のウリミバエの交尾行動に違いが発見され、両地域のウリミバエが果して同種か否かという植物検疫上重要な疑問が出てきた。 このような情況下で、ハワイ大学の研究者と共同で両地域のミバエ類,とくにウリミバエの配偶行動と精子競争を研究するため、本国際学術研究を実施した。 2年間のあいだに本研究費によって日本人2名をハワイに派遣しアメリカ側研究分担者とともにハワイ産ミバエの求愛音響と性フェロモン放出機構,とくにウリミバエのそれが日本産と違うか否かを調査した。またアメリカ側研究分担者Kaneshiroが本研究費により2回(平成2年度および3年度),別途研究費により1回(平成3年度)来日し、沖縄本島および石垣島で日本側分担者と共同調査を行なった。得られた結果は次の通りである。 1.沖縄とハワイのウリミバエの求愛行動の違いは、両地域における生態密度の違いによる部分が大きいことが判明した。すなわちハワイでは密度が低いためオスは集団求愛場(レック)で待機していては交尾の機会が乏しく、自らメスを探索する必要があるが、密度の高い沖縄では集団求愛場で待機する方が交尾機会が多い。沖縄でも低密度条件下では、ハワイと同じような行動をとるのが観察され、ウリミバエのオスはその社会的環境によって行動を変えることがわかった。しかし、両地域間でどういう条件でオスが動きまわるかについては微妙な差があるように思えた。 2.沖縄のウリミバエの求愛音響解析のため作られた録音装置をハワイに持参し、ハワイ・オアフ島産ウリミバエの求愛音響を記録解析した。その結果、交尾信号音の休止間隔に若干の違いが認められ、両者の遺伝的素質の差異が示唆された。しかしその程度は僅かで、種を異にするほどのものではなかった。 3.ハワイ産ウリミバエも、沖縄産と同様腹部剛毛に後脚でフェロモン液滴を移し、この剛毛と翅後縁の剛毛をすりあわすことによって煙状とし、翅のおこす風でメスの方へ送ることがわかった。この剛毛の排列も全く両地域に差はなかった。このことは微小な形態においても両地域の個体群に分化は生じてないことを示す。 4.以上の結果から、ハワイと日本南西諸島のウリミバエは別種ではなく同種と判断して良いと思われる。しかし上記1と3に見られる微妙な差異は、両地域での性行動を利用した本種防除の実施に際して慎重に考慮すべきことがらだと考えられる。 5.放射線で不妊化したオスと正常オスとの重複交尾によって、日本産ウリミバエの精子競争を調査した。従来ウリミバエでは2回目に交尾したオスの精子による受精の割合(精子優占度,P_2)が高いという報告と高くないという報告とがあったが、本研究から、このくい違いの原因が交尾間隔によることが判明した。すなわち交尾間隔が数日であれば、第1オスと第2オスの精子が同じくらい受精にあずかり、P_2は0.5に近い。ところが交尾間隔が長くなるにつれてP_2は1に近ずく(第2オスの精子の優占)。第1回交尾と第2回交尾の間に産卵を許した区と許さない区を設けた実験によって、このP_2の変化は受精ないしそれに関連した過程による精子のロスによるのではなく、受精のう内の精子寿命が短かく、第1オスの精子が減少するためであることがわかった。これは昆虫における最初の発見である。 6.ウリミバエの交尾時間は8時間以上だが、精子の輸送は4時間で終了する。交尾中断実験によって、6時間以上交尾したメスは再交尾を拒否する傾向があることがわかった。精子を欠くオスとの交尾も再交尾拒否を促すので、これはショウジョウバエのように精子の存否と関連してはいない。恐らく精子輸送終了後、オスの性腺付属腺の分泌物がメス体内に注入され、これがメスの再交尾拒否を促がすのだと思われる。予備的な付属腺移植実験の結果もこのことを示唆した。
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