研究概要 |
岡山大学と中国科学院地理研究所の研究者の間で,中国半乾燥農地における水と二酸化炭素の循環に関する共同研究を計画した。共同研究の目的は,中国東部の半乾燥地域において,水と二酸化炭素の大気一植物ー大地間の循環機構を解明し,乾燥・半乾燥地域での作物生態系のあり方についての基礎資料を得ることである。本年度は,将来の本格的な共同研究の準備として,日中双方の協力体制の確立と観測予定地の現地調査を行った。以下において,本年度の実績の概要,今後の展開について述べる。 1.日中共同研究の協力体制の確立 1990年5月30日から6月14日にかけて,中国科学院地理研究所を訪問し,左研究所長,陳,張,廖の3人の副所長と会談した。日中共同研究が実現すると,ル-チン観測と特別集中観測の実施となり,地理研究所からの人的,物的援助が不可欠となる。その点については,左所長と3人の副所長から測定器の輸送,観測補助者,電源工事等必要事項について地理研究所が全面的に協力すると確約して下さった。また,中国科学院学部委員,中国科学院地理研究所名誉所長,中国地理学会理事長の黄乗維先生からは,中国科学院としてもこの共同研究を優先的に応援する旨約束して下さった。これら一連の会談によって,共同研究に対する中国側の協力体制が確立していることを確信した。 2.二酸化炭素の輸送に関する研究 現地調査により,地理研究所では工業計器としての二酸化炭素計を有していることがわかった。しかし,この二酸化炭素計では二酸化炭素のフラックスを直接測定することができない。従って,共同研究の時には,日本から,二酸化炭素のフラックスを渦相関法で直接測定できる乱流変動計一式を持っていけばよいことがわかった。種々の安定度条件下で,日本の測定器と地理研究所の測定器で測定した二酸化炭素フラックスを比較すれば,地理研究所の二酸化炭素フラックスの測定システムを補正することができる。また、二酸化炭素フラックスは,植物の生理生態に依存して変化するので,二酸化炭素フラックスを測定する際には植物の蒸散抵抗や気孔抵抗を測定することが大切である。この点については,地理研究所の作物生理生熊部門の研究者が共同研究に参加される予定である。 3.水蒸気の輸送に関する研究 地理研究所では熱電対乾湿温度計を用いて,空気力学的傾度法と熱収支法によって水蒸気のフラックスを測定している。この場合,湿球感部の時定数が大きくなり,水蒸気変動の測定が困難になる。湿球温度計の時間遅れに伴う周波数応答がRCフィルタ-の伝達関数と同じ形で与えられると仮定した補正を行う必要がある。補正方法は既に我々のところで開発しているので,その処理方法のソフトを送ることにした。また,共同研究時には日本から赤外線水蒸気変動計を送ることにした。これは,水蒸気変動計を用いて渦相関法で測定した水蒸気フラックスが他の間接的な測定方法の基準になるからである。共同研究の実施を予定している中国科学院禹城綜合試験所では春季と冬季の雨量が極端に少なく,春季と冬季の水供給が作物栽培の重要課題である。そのため,安価に作成できる水蒸気フラックス測定器を計画的に展開して禹城地方の水環境の動態を把握することも計画中である。 4.地理研究所の準備状況 1990年10月1日から15日まで陳発祖地理研究所副所長が来日された。現在,禹城綜合試験所では電源工事の検討を行っており,続いて,実験圃場に観測用小舎を建てることを予定している様子。将来の日中共同研究のために,地理研究所の主導の下で準備が進行していることがわかった。また,岡山では共同研究の際に中国へ持参する予定の乱流変動計を使った予備観測を実施し,陳氏に測定器の動作に慣れていただいた。 今後,日中共同研究を発展させることができるなら,「平坦地にある森林上での乱流観測」と砂漠とオアシスがある所での「移流時の乱流観測」を実施したい。これらの研究は,将来の耕地の拡大による水需要の予測を行うときの基礎資料を与えることになるだろう。
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