研究概要 |
GEOTAIL衛星は,太陽活動の極大期,減衰期から極小期の太陽・太陽圏の観測を,一方,SOHOは極小期から増大期にかけての静かな太陽・太陽圏の観測を実施する。双方の衛星は,国際太陽地球系物理学プログラムの骨格をなす重要な衛星であり,また相補的な関係にもある。本研究班の大部分のメンバーは,GEOTAIL-HEP班員である。双方に登載されている粒子観測器が,Si検出器を使用している事から,観測器の基礎試験,較正試験,同位体弁別の解析等殆ど同じである。また,太陽・銀河宇宙粒子線の連続観測,これまでの太陽研究が太陽活動極大期の研究であり,静穏期の太陽研究は殆どない。これらの点から,GEOTAIL-SOHOの国際協力の意義は大きく,SOHO-GEOTAILの粒子観測班では1991年から国際研究協力が始まった。先ず,双方の搭載機器の万全を図るために,センサー技術や同位体弁別に関する情報交換が行われた。 GEOTAIL衛星に搭載する粒子観測器の性能を予め調べるために,理研のリングサイクロトロン加速器,LBLベバラック加速器の重イオンビームを利用して実験を行った。その結果,設計段階で予想していた性能がほぼ達成できた。即ち,He〜Ni迄の同位体が質量分解能0.5amu以下(例えば,HEP-HI望遠鏡,Mn:0.47amu)で弁別でき,その幾何学的因子S・Ωは全体で約110cm2srである。この値は,これまでの衛星に搭載された粒子望遠鏡(IMP-7/8,ISEE-3,VOYAGER-1/2)のS・Ωに比べると約100倍,またULYSSESに搭載されている望遠鏡HITと比較しても,10〜20倍も大きくなっている。このように高感度で高質量分解能を有する望遠鏡は世界に例をみない。また,測定エネルギーは,20MeV/nHe〜210MeV/nNiの広い範囲にわたっている。コロテイテング・イオン・イベント,宇宙線異常成分の低エネルギーから銀河宇宙線の高エネルギー領域までカバーしている。 GEOTAIL衛星は,1992年7月米国のケネヂー宇宙センターから打ち上げられ,予定通りの軌道を順調に運行している。現在,SOHO衛星に3年先んじてGEOTAIL-HEP粒子観測が開始された。観測器の作動状熊や診断の為のクイック・ルック(QL)については,HEP観測器の個々の電圧・電流・温度,また,各Si検出器の波高分布等の項目がある。リアルタイムモードで観測する際は,GEOTAIL-HEPのメンバーは,研究室,或は自宅からネットワークを介して宇宙研にアクセスして,QL項目を開き観測器の動作状熊を知る事ができる。較正済みデータ(CDB)については,最近フォーマットが決まったが,CDBのデータベース化は93年3月末か4月以降となる。観測データの視覚化のためのQLとしては,各観測器の透過粒子と停止粒子についての強度変化等がある。機器の温度については,オンボードでの設定値の±5℃以内に入っており,-3〜-10℃の範囲にある。 太陽圏内の粒子環境としては,主として50MeV/n以上では銀河宇宙線,50MeV/n以下では時折起こる太陽フレアーに伴う粒子イベント,惑星間空間の衝撃波等で加速された粒子イベント,或は宇宙線異常成分等が挙げられる。これらの粒子は,電子や水素〜鉄に至る重粒子成分等で構成され,それぞれの元素はいくつかの同位体から成り立っている。また,それらの強度は粒子の種類により大きく異なっている。現在,GEOTAIL衛星に搭載された粒子観測器によりデータが少しずつ蓄積され始めている。大半の観測データは,銀河宇宙の高エネルギー透過粒子である。相対論的粒子の元素分離は大変容易で,現在主要元素の積分フラックスが得られた。全イベント数の約1割が検出器内で停止した粒子である。 現在,同位体検出器HEP-HIで得られた約3週間分のデータの解析が進められている。その結果,炭素,窒素,酸素,Ne,Mg,Si,Ca,Fe等の主要元素のピークが明確に検出できた。同位元素の質量分離については,微妙な補正が必要なので,もう少しデータ(3月間以上の観測期間)を蓄積する必要がある。これまで観測された粒子イベントは,全て銀河宇宙線イベントであり,残念ながら,太陽フレアー粒子イベントは未だ観測されてない。今後4年間にわたる観測により,大フレアーだけでなく小規模のフレアーに伴う粒子イベントの元素や同位体成分,銀河宇宙線の同位体成分が精度良く測定できるものと期待される。
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