研究分担者 |
中別府 雄作 九州大学, 生体防御医学研究所, 助手 (30180350)
清水 憲二 九州大学, 医学部, 助教授 (10037286)
DAVID Ludlum マサチューセッツ大学, 医学部, 教授
MICHAEL Volk マサチューセッツ大学, 医学部, 準教授
VOLKERT Michael University of Massachesetts, School of Medicine
LUDLUM David B. University of Massachesetts, School of Medicine
作見 邦彦 九州大学, 生体防御医学研究所, 助手 (50211933)
VOLKERT Mich マサチューセッツ大学, 医学部, 準教授
MATIJASEVIC ゼンカ マサチューセッツ大学, 医学部, 研究員
早川 浩 九州大学, 医学部, 助手 (70150422)
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研究概要 |
アルキル化剤は生物のDNAを傷つけ,その結果突然変異や癌を引き起こす。細胞はアルキル化剤に感受性を示すが,大腸菌などの微生物細胞を予め低濃度のアルキル化剤で処理すると,その後高濃度のアルキル化剤を与えても抵抗性を示し,その致死効果や突然変異誘起効果が現象的に減少することが知られている。この現象は一般に適応応答とよばれているが,これはアルキル化剤でDNAにできた傷がシグナルとなって,アルキル化剤によってできた傷をなおす酵素を誘導することがこれまでの研究で明らかにされた。DNAの傷はO^6-メチルグアニンとホスホトリエステルであって,この傷を認識してそのメチル基を転移するメチルトランスフェラーゼが大腸菌からヒトに至るまで調べられたほとんどすべての生物に存在する。この酵素はメチル基を自らの蛋白の一部(その特定のシステイン残基)に転移し,メチル型となった蛋白は今度は転写調節因子として活性化される。 我々は大腸菌の系でこの転写活性化の機構を研究した。そのため大腸菌からこの系に異常を持つミュータントを分離し,またその遺伝子のクローニング,遺伝子産物の大量生産と精製,試験管内転写系を構築して分子レベルの反応解析などを行ない,この反応系のほぼ全容を明らかにすることができた。適応応答に関する遺伝子としてはada,alkA,alkB,aidBの4つの遺伝子を同定し,その中でada遺伝子産物がメチルトランスフェラーゼとして特定のメチル化部分の修復に関与するとともに,転写調節因子として系全体の遺伝子発現を調節していることを明らかにした。alkA遺伝子の産物は3-メチルアデニンDNAグリコンラーゼIIであって,アルキル化剤によってできる3-メチルアデニンを含むメチル化塩基をDNAから遊離するが,今回の共同研究でこの酵素はクロロアセトアルデヒドでつくられるN2,3-エテノグアニンのような特殊な修飾塩基もDNAから取り除くことが明らかになった。 適応応答においてはAda蛋白(ada遺伝子の産物)が転写調節因子として中心的な役割を演じる。Adaは蛋白は354アミノ酸残基から成るが,そのCys69とCys321がメチル受容基で,それぞれDNAのメチルホスホトリエステルおよびO^6-メチルチミンも)からメチル基を受け取ることが明らかにされている。そのうち転写調節因子としての活性化に効果があるのはCys69のメチル化である。メチル化されたAdaタンパクはそれ自体の遺伝子のプロモーターに結合し,通常はそこに結合する能力の低いRNAポリメラーゼのプロモーターへの結合を促進する。メチル化されたAda蛋白とRNAポリメラーゼはDNA上で三者結合体をつくっていると考えられる。この時メチル化Ada蛋白が認識して結合する領域をフットプリンティング法および部位指定変異導入法で調ベたところ,それはプロモーターの-35ボックスより若干上流に存在するAAAGCGCAというオクタヌクレオチド配列であることが明らかになった。 この転写活性化によってada遺伝子の産物が大量につくられるが,このようにして細胞内に蓄積したAda蛋白は,このレギュロンに属する他の遺伝子のプロモーターに結合してその発現を促進する。このようにしてalkA遺伝子の転写が活性化されるが,そのとき働くのはAda蛋白であってこれは必ずしもメチル化されている必要はない。そこでalkA遺伝子のどの領域にAda蛋白が結合して転写を促進させるかを,in vitroおよびin vivoの系を用いて解析した。その結果alkA遺伝子の調節に働くのは,その-35ボックスと部分的に重なって存在するAAAGCAAA配列であることが明らかになった。alkAプロモーター内にはAAAGCGCAという配列も存在するので,これよりもAAAGCAAA配列がより強いAda蛋白結合能を有し,これによってadaとalkA遺伝子において微妙に異なる転写を調節するとともに,適応応答全体としてきわめて生物的な反応をきたしているものと考えられる。 適応応答は枯草菌やサルモネラ菌など他の細菌においても見られるが,その調節の機構を理解する上でも,本研究の結果は役立つと考えられる。
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