研究概要 |
本研究は[1]巨大な磁気履歴曲線の起源を明らかにする。 [2]伝導電子の状態および磁気分極の実体を明らかにする。 [3]これらを通じてサマリウムの示す異常な磁性の起源を明らかにする。という目的に従って行われた。 試料としてはSm(Ag,In),SmCu,SmZn,SmAu,SmRh,SmPt等を作成した。測定としては,磁化,直流帯磁率,交流帯磁率,電気抵抗,ホ-ル効果,熱電能などの測定が行われた。磁化帯磁率の測定結果からは,立方結晶以外の結晶構造の化合物は0.3ボ-アマグネトン/サマリウム原子と大きな磁化を持つこと,および高々0.3テスラ-の小さな保磁力しか持たないことを確認した。立方晶化合物は0.07ボ-アマグネトン/サマリウム原子程度の小さな磁化を持ち,7ー10テスラ-の大きな保磁力をもつことを確認し,大きな保磁力は立方晶特有の現象であることを確認した。立方晶化合物の小さな磁化の起源を明らかにするために結晶場ー4f電子相互作用に基づいて磁化,帯磁率の計算を行いCsCl型化合物の4f基底状態はΓ_7(2)で,Hund基底項のスプリット巾は約490Kである結果を得た。しかしながらこの結果は,他の軽希土類化合物の結晶場と矛盾するものであり,むしかΓ_8を基底項と考え,強い異方性によって磁化が制限されていると考えた方が他の測定結果とつじつまがあう。 SmAg_<1-x>In_xの磁化・帯磁率測定の結果はO〈x〈0.2の化合物は反強磁性であり,0.2〈x〈0.7の化合物は強磁性であることを示した。帯磁率は磁気転移点直下でピ-ク(ホプキンソン効果)を持つ以外に,すべての化合物で,低温(T_tに第2のピ-クが現れ,磁気的な再配列あるいは四重極配列があることを示唆している。すべての化合物について,15テスラ-までの磁場を加えて磁化を測定した。反強磁性化合物の磁化カ-ブは15テスラ-まで直線的であった。強磁性化合物はいずれも大きい保磁力を示し,T=5Kで7ー10テスラ-の値を示した。いずれの化合物もT_t以下で保磁力は残留磁化の4乗に比例し,基底項はΓ_8であり,四重極ー格子相互作用によることを示唆している。しかしながら,T_t以上の温度では,H_cの対数は1/Tに比例し,この温度領域では保磁力は磁壁のピン止め効果によることを示唆している。 さらに,電気抵抗,ホ-ル効果等の測定を行い,SmAg_<1-x>In_xは他の軽希土類化合物と同様フェルミ面の様子はxとともに大きく変わり,電子状態はホ-ル軌道から電子軌道へと変わる結果を得た。不純物抵抗はx=0.5付近でピ-クをとり,ノルドハイム則にほぼ従っている。磁気抵抗(ρmag)は磁気構造の変化するx=0.2でほぼゼロとなり,反強磁性と強磁性化合物でkーf積分の符号が正から負へと変化していることを示している。熱電能の測定からは,反強磁性化合物SmAgのネ-ル点でギャップが見られ,電気抵抗の温度依存の振る舞いとともにこの磁気転移が一次転移であることを示唆している。しかしながら強磁性化合物はキュ-リ-点でなめらかに急激に変化し転移が2次移であることを示唆している。キュ-リ-点以下では反強磁性化合物と同様な振る舞いを示した。 以上のように,サマリウム化合物の巨大な保磁力は立方晶結晶場中の四重極を伴う基底状態によるものと見なされ,その温度依存は四重極ー結晶格子相互作用によるものとして理解できる。しかしながら,秩序一秩序転移あるいは四重極配列と思われるT_tでの移転の原因はこれからの解明を待たねばならない。転導電子の状態は他の軽希土類化合物と同様,YZn型の電子構造となっており,kーf積分の符号は反強磁性化合物と強磁性化合物とで異なっており興味ある振る舞いをすることが判明した。熱電能からはSmAgは一次転移の磁気変態を行うことが示唆されたが,詳細は今後の解明に待たざるを得ない。
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