研究概要 |
1.CSIRO・NMLにおけるΩSI値付けおよび量子化ホ-ル抵抗測定の調査と1Ω標準抵抗器の携行:平成2年10月,研究代表者はオ-ストラリア科学技術研究庁(CSIRO)の国立計測研究所(NML)を訪問し,1Ω標準抵抗器の製作とクロスキャパシタ-による1Ω標準抵抗器のΩSI値付けの実施状況を調査した.NMLは電気標準だけではなく,全ての物理量の標準研究を総合して行っている集中した機関である。1Ω標準抵抗器の製作と長期管理ならびにΩSI値付けは,保証する精度以内(0.06ppm)で信頼できると結論した.量子化ホ-ル抵抗の測定は,主として,リケッツ氏が担当し,1Ω標準抵抗器の製作とΩSI値付けを行っているのと同じ実験室で,10T超伝導磁石と液体へリウムによる低温度でGaAs/AlGaAsヘテロ接合試料について行われていた.クライオスタット内の試料から恒温オイル槽内の切り替えスイッチまでコネクタ-無しに直接配線していることが学習院大学と異なる点である.また,自動計測用スイッチ類はすべて恒温オイル槽内にあることも異なる点である.インピ-ダンス・グル-プのリ-ダ-であるスモ-ル氏の好意により貸与された2個の1Ω標準抵抗器(R1=Sー60658,R2=64163)を航空機座席に持ち込み,学習院大学理学部内研究代表者の実験室まで携行した.2.Small氏との学習院大学における協同研究:平成2年12月,CSIRO・NMLからインピ-ダンス・グル-プのリ-ダ-であるスモ-ル氏が来日し,研究代表者の実験室にある超高精度抵抗比較測定用回路の点検・改良ならびにコンピュ-タによる自動化計測システムの最適化を行った.これを実行するに際して,NMLから貸与された2個の1Ω標準抵抗器がきわめて安定であることを利用し,測定システムの点検と調整を行うための標準試料として使用した.その結果,室温制御用空調機の動作に付随する微小な温度変化に原因する回路内熱起電力の温度変化を見いだし,これを除去することに成功した.この効果は,安定な電流源を使用すれば,約6時間の測定時間で,0.1Vの電圧降下に対して0.01ppm以内の精度で安定した抵抗比較が可能になった. 3.Ricketts氏との学習院大学における協同研究:研究代表者たちが行ったGaAs/AlGaASへテロ接合試料の量子化ホ-ル抵抗の参照抵抗器に対する比較測定の結果を考慮して,平成3年3月,リケッツ氏はあらたに値付けされた1Ω標準抵抗器(R3=64146)を携行して来日した.この抵抗器を先に貸与されていた2個の1Ω標準抵抗器R1,R2と同じオイル恒温槽に納めて,3個の1Ω標準抵抗器相互の比較測定を行った.その結果,R1,R2の抵抗値は安定であることが判った。1Ω標準抵抗器R3は,リケッツ氏によりNMLに携行されて,再度検定し,その結果を報告されることになった.なお,この期間に,試料ホルダ-の配線の絶縁抵抗の検定,直流電流比較型電位差計の自動平衡回路の動作検定を協同して行った. 4.測定結果の要約:15.6Tまでの磁場中で0.5Kまでの低温度で量子化ホ-ル抵抗の超高精度比較測定(精度0.01ppm以内)を10時間以内に行い,試料交換を容易に可能な,測定システムと試料ホルダ-の再構築を行った。このシステムによって,平成3年2月に,GaAs/AlGaAsヘテロ接合試料の量子数2と4の量子化ホ-ル抵抗をそれぞれの値に極めて近い抵抗値をもつ参照抵抗器に対して相対測定を行った.10μAの電流を用い,6時間の測定で,量子数2の量子化ホ-ル抵抗については0.01ppm以内,量子数4のそれについては0.015ppm以内の精度で測定できた.NMLの1Ω標準抵抗器に基づいて極低温度流比較計により参照抵抗器を較正して,1988年のNMLの測定結果と比較して,参照抵抗器の経時変化が0.0018ppm/日であることが明らかになった.この経時変化は,今後,量子化ホ-ル抵抗の超高精度測定を連続して実行するために,十分に小さい値である.
|