研究分担者 |
ELEMER Labos ゼンメルワイス大学, 医学部, 教授
武者 利光 東京工業大学, 総合理工学研究所, 教授 (70016319)
竹内 宏 岐阜大学, 医学部, 教授 (10033333)
外崎 肇一 朝日大学, 歯学部, 講師 (30103485)
LABOS Elemer Semmelweis University, Medical School, Prof.
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研究概要 |
味覚の情報発生伝達機構の解明のための研究は、感覚生理学の分野において最も重要な課題のひとつであるが、感覚生理学の他の分野、例えば視覚、聴覚等の研究にくらべて著しく遅れている。その理由としては味覚受容器である味細胞が小型でしかも味蕾という特殊な構造内にあり、味雷は舌背面にまばらに存在し、しかも味蕾の膜は丈夫で外液の浸入を容易に許さないという形態的な問題がある。しかしながら味覚は生体にとってその生命維持と密接に関連した重要な事項であり、さらに今日需要が高まっている化学センサ-の開発の面においても味覚受容機構および味応答発現伝達機構を数理科学的にも解明する必要がある。すでに本研究者らによって、電気生理学的な味細胞内記録により次のようなことが明らかに成っている。1)蔗糖(甘味)、食塩(塩味)、キニ-ネ(苦味)、塩酸(塩味)によって味細胞は興奮を起こすが,蔗糖刺激によって脱分極性電位を示し、その際膜抵抗が増大するものでは確実に味細胞内に記録電極が入っていることが細胞内色素注入法によって判明した。ところが、同一の味細胞でも食塩刺激にたいしては脱分極電位変化を示し、その際膜抵抗は減少する。2)味細胞内電圧固定法による実験では蔗糖刺激では外向き電流が減少して膜抵抗が増大する。一方、食塩刺激では内向き電流が増大して膜抵抗が減少する。1)、2)のことから蔗糖刺激では味細胞受容膜に蔗糖が吸着することにより味細胞膜のK^+イオンの透過性が減少することによって味応答が発生すると推定された。このことはさらに味細胞内に細胞内二次伝達物質としてのcーGMPおよび細胞膜のK^+イオンチャンネルブロッカ-であるTEAを注入することによっても蔗糖応答と同様な電位変化、膜抵抗変化が記録され、K^+イオン透過性の減少によるという仮説を支持した(Tonosaki,K.& Funakoshi,M.:Nature,331,354ー356,1988;Brain Res.,445,363ー366,1988)。しかし、食塩、苦味、酸味応答の発生に関してはそのメカニズムはまだ不明である。これらの点については研究中である。 蔗糖、食塩刺激に対する味細胞の応答の性質からそれらの刺激に対して味細胞膜の発生する膜の性質をその膜のイオン機構を考慮にいれて電気的等価回路として数理化学的に表現することを行ってみた。味細胞の興奮発生は刺激
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の受容から細胞内二次伝達物質を介して細胞膜の内液と外液のNa^+,K^+,Cl^-イオンの移動によって発生すると考えられる。一般の興奮性神経細胞や神経繊維では現在HodgkinーHuxley's equationが適応されることが判明している。そこでこの方程式に従って E=m^ahg_<Na>V_<Na>+n^bg_KV_K+g_LV_L(E:電位変化、m^a:Na^+イオン活性価、h:Na^+イオン不活性価、n^b:K^+イオン活性価、g_<Na>,g_K,g_L:Na^+,K^+,その他のイオンのコンダクタンス、V_<Na>,V_K,V_L:Na^+,K^+,Lの平衡電位)として味細胞膜の電気的等価回路式を表しBasicによるプログラムを作成し、各々の値を変化させた時、どのような条件で蔗糖および食塩応答の様式を再現できるかを調べた。その結果、食塩応答、即ち脱分極電位変化で膜抵抗減少はa=4,b=3,m=0.053,h=0.6,n=0.32,v=-15の条件で再現でき、通常のHodgkinーHuxley's equationで説明出来る結果と相同となり膜のNa^+イオン(Na^+チャンネル)が活性化されて膜の脱分極、膜抵抗減少が説明されると考えられる。しかし、食塩が受容膜に吸着してNa^+イオンが受容膜を透過して細胞内のNa^+イオンが増加するとは実験事実からは考えにくいため、細胞内二次伝達物質(現在まだ不明)の関与があって受容膜以外の細胞膜でのNa^+イオンの透過性増大が生じて発生すると推定される。蔗糖応答発生のイオン機構においてもその膜の基本的性質は食塩の場合と同一と考えa=4,b=3として解析してみると、代表的値としてm=0.053,h=0.01,n=0.99,V=-15もしくはm=0.0053,h=0.001,n=0.99,V=-15という値をとらせるとNa^+イオン電位の変化は小さく、K^+電位の変化が増大して膜抵抗の増大を見ることができる。このことは、Na^+イオン活性価は一定でもNa^+イオン不活性価の値を小さくしてK^+活性価の値を大きくするか、Na^+活性価を小さくしてK^+活性価の値を大きくすれば蔗糖応答様の脱分極電位変化、膜抵抗増大を再現することができることが解った。しかしながら、そのような膜の特性の切り替えがどのようにしておこなわれるのかについては今後の研究が必要である。 隠す
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