研究概要 |
タコ・ロドプシン,シナプトラィンシ,シネクシン,RNAポリメラーゼII,グリアヂン,ホルダイン,グルテニン等に存在する繰り返しアミノ酸配列に対して提案したポリプロリン・β-ターン・ヘリックス構造を新しい超二次構造として確立するため,平成2年度および3年度において行った研究をさらに詳しくすすめた。 (1) ロドプシンは網膜の子細胞に存在する色素タンパク質で,イオンポンプの働きをもっているといわれている。タコ・ロドプシンC末満に存在する繰り返しアミノ酸配列(Tyr・Pro・Pro・Gln・Gly)n (n=8)(最近,イカ・ロドプシンにも同じ繰り返しアミノ酸配列が存在することが明らかにされている)を化学合成した試料をもちいて,種々の2次元NMR測定を行った。n=2の試料の測定は,すでに行っているが本年度はN=4についても行い,n=2に非常に似たスペクトルを観測した。そこで,分子モデリングによりNMRの結果にもとづいて得たn=2の可能な立体構造を,n=4の場合にのばしてそれをn=4の初期構造とてい得た。次に,このn=4の初期構造のエネルギー極小化および分子動力学計算をおこなった。二つの可能な初期構造にうち,一つの構造は,300Kの分子動力学計算(プログラムAmber)を1 psec後においても,グリシン残基の内部回転角は余り変化せずかなり安定な構造であることが示唆され,また,Gly・Tyrである種のターン構造をとることが見いだされた。 (2) 小麦の貯蔵タンパク質であるグルテニン高分子量(HMW)サブユニットのX線小角散乱の濃度依存性の詳しい実験を行った。その結果,0.1M酢酸溶液における微小角領域(分子全体の慣性半径が測定できるギニエ領域)の散乱強度は,濃度2.0mg/1を越えると著しく減少した。このような強度の減少は,分子間の干渉効果として知られている。ド・ジャンは高分子溶液のダインミックな振舞いを理解するために,希薄溶液とは体質的に異なる″準希薄溶液″を考えている。準希薄溶液は,分子同志が互いに接触し始める濃度であり,濃厚溶液と同様に分子間干渉効果を起こすと考えられる。準希薄溶液の性質を示し始める濃度は,分子の大きさと形に強く依存し,球状分子やランダムコイルに比べ棒状分子のそれはかなり低い濃度である。したがって,比較的低いタンパク質濃度であらわれた強い分子間干渉効果は,分子全体の慣性半径および断面の慣性半径の結果を併せて,グルテニン HMWサブユニットは棒状分子として存在することが強く示唆された。 (3) 小麦の貯蔵タンパク質は溶液解度の程度に従いプロラミン(α/β,γ,w-グリアジン)とグルテニンに分類される。オオムギおよびライムギ,トウモロコンのプロラミンは,それぞれホルダイン,セカリン,ゼインと呼ばれている。これらの貯蔵タンパク質の一次構造は,Phe および Pro,Gln が高い現れる繰り返しアミノ酸配列部分を含んでいる。すでに述べた様に,われわれはホルダインおよびグリアジン,グルテニンの繰り返しアミノ酸配列に対しポリプロリン・β-ターン・ヘリックス構造を提案しているが,コンピュータグラフィックスを用いた分子モデリングおよびエネルギー計算により,次のタンパク質に存在する繰り返しアミノ酸配列の立体構造予測も行った。γ-グリアジンに存在する繰り返しアミノ酸配列(Pro・Gln・Gln・Pro・Phe・Gln・Gln)n(n=16)およびゼイン/グルテリン-2に存在する縦列反復配列(Leu・Pro・Pro・Pro・Val・His)n(n=8)が,やはりポリプロリン・β-ターン・ヘリックスあるいはそれと密接に関連したらせん構造をとりえることが明らかとなった。このようにポリプロリン・β-ターン・ヘリックスをとると思われる縦列反復配列は,他のタンパク質にも見いだされいてる。 以上の立体構造予測研究および二次元核磁気共鳴,X線小角散乱の実験研究は,確かにポリプロリン・β-ターン・ヘリックスという超二次構造が存在し,しかも一つの基本的な構造であることが強く示唆される。
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