日韓における考古遺物の材質的検討と保存法の開発研究

• 研究課題/領域番号: 02044164
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 共同研究
• 研究機関: 奈良国立文化財研究所
• 研究代表者: 沢田 正昭 奈良国立文化財研究所, 埋蔵文化財センター・遺物処理研究室, 室長 (20000490)
• 研究分担者: 李 相洙 国立中央博物館, 保存科学研究所, 室長 ; 李 昶根 韓国文化財研究所, 木浦海洋遺物処理所, 所長 ; 金 誠亀 国立晋州博物館, 館長 ; 趙 由典 韓国文化財研究所, 遺跡調査研究室, 室長 ; 金 東賢 韓国文化財研究所, 保存科学研究室, 室長 ; 成瀬 正和 宮内庁正倉院事務所, 保存課, 総理府技官 ; 村上 隆 奈良国立文化財研究所, 埋蔵文化財センター・遺物処理研究室, 研究員 (00192774) ; 永嶋 正春 国立歴史民俗博物館, 情報資料部, 助教授 (50164421) ; 肥塚 隆保 奈良国立文化財研究所, 飛鳥藤原宮跡発掘調査部・考古第2調査室, 主任研究官 (10099955) ; 工楽 善通 奈良国立文化財研究所, 埋蔵文化財センター・集落遺跡研究室, 室長 (00000472) ; LEE Sangsoo National Museum of Korea ; MYONGI Lee National Research Institute of Cultural Properties ; KIM Song National Museum of Chinju ; NAGASIMA Ryu Nara National Cultural Properties Research Institute
• 研究期間 (年度): 1990 – 1991
• 研究課題ステータス: 完了 (1991年度)
• 配分額: 9,000千円 (直接経費: 9,000千円); 1991年度: 5,000千円 (直接経費: 5,000千円); 1990年度: 4,000千円 (直接経費: 4,000千円)
• キーワード: 韓国 / 出土木材 / 漆 / 金属 / 日韓 / 木製品 / 漆製品 / 金属製品 / 新安

研究概要

・研究目的
新石器時代以来、わが国で出土する文物の多くは、その系譜が大陸、及び韓半島に求められると考えられている。とりわけ、韓半島からは、直接もたらされたり、あるいは強い影響を受けてわが国で製作されたものが多い。本研究では、両国間で共同して、これら文物の材質分析や製作技術の検討をおこない、同時に保存科学的な研究を推進することを目的とする。
・研究計画
(1)出土木材:韓国内で発掘調査される遺跡についての情報を積極的に取入れ、この種出土木材に関する分析デ-タの蓄積をおこなった。さらに、保存処理の方法を検討した。また、保存処理後の木材の保管条件についても検討をおこなった。
(2)漆器:古代の漆製品の漆膜を中心にした材質分析に関する、両国間における情報交換をおこなった。また、古代漆工に関する両国間の技術交流の実態、各国における時代的な技術の変遷について、検討した。
(3)金属製品:鉄器、銅製品をはじめ、金銅製品について、韓国における民間の博物館、美術館にまで研究協力者を求め、材質分析と保存技術についての検討をおこなった。
・研究成果
最終年度(平成三年度)には、両国の研究者が一堂に会して、研究会を開催した。この研究会には、各研究班の、すなわち、出土木材、漆器、金属製品の材質別に分担を決めた。各班では、本研究の分担者以外にも参加を求め、話題提供、並びに質疑応答に参画してもらった。
(1)出土木材:化学処理に使用されたポリエチレングリコ-ルの分子量によって、保存環境の設定条件が異なってくる。さらに、木材に浸透している硫化物などが含有されたままの場合には、ポリエチレングリコ-ル含浸処理された遺物であっても、処理後の保存環境が相対湿度55ー56%では、湿気の吸収がはじまる。そして、湿度の増加とともに、吸収率は高まる。通常の出土木材の場合には、70%以下に、できれば、60%以下に抑えるべきであるという結果がでた。また、凍結乾燥された木材の保存環境の設定条件も前者と同様の検討した。
真空凍結乾燥法の前処理法については、タ-シャリ-ブタノ-ルを使う方法に代えて、ポリエチレングリコ-ルの水溶液を使用する方法を検討したが、従来のように、ヘア-クラックや若干の収縮を逃れることはできなかった。
(2)漆器:両国間の分析資料は充分ではなかった。日本出土の試料には、縄文時代から弥生時代、古墳時代、そして中世にいたる各種の試料を準備することができた。これらの試料については、まず、漆膜の断面について光学的顕微鏡、あるいは電子顕微鏡による観察を行なった。
観察結果から、次のようなことが分かってきた。すなわち、韓国での漆使用の始まりは、今から約2000年あまり前の青銅器時代までさかのぼるが、それ以前については、現在の試料からでは全く分からない。ただし、わが国の漆工技術が大きく飛躍するのは、8世紀になって新しく受け入れた唐文化や統一新羅文化の影響によってであるとみられている。
(3)金属製品:青銅製品を中心に、さびていない地金部分とさびの両方を分析比較し、さびの生成過程を解明した。この課題は、世界の研究者の永遠の研究課題でもある。今回の研究では、同一の古墳から出土した約40点の銅鏃のさびを分析し、出土地点ごとにさびの材質的な相違点を整理した。その結果、さびの進行が激しい一団には、錫含有量が低いものがあるという特徴があった。
また、鉄製品のさびの発生防止の重要な処置である脱塩処理については、両国ともに、数例の方法が試みられている。それぞれの効果については、比較することが難しく、今後の課題となった。

研究成果

• [文献書誌] 沢田 正昭: "考古資料としての木材の化学処理" 木材保存(社団日本木材保存協会). 61号. 8-13 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 沢田 正昭: "考古遺物の化学処理" 化学と教育(日本化学会). 40ー1. 22-25 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Masaaki SAWADA: "Chemical Treatment of Wood as a Archaeological Objects" Conservation of Wood. 61. 8-13 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Masaaki Sawada: "Conservation of Archaeological Materials" Chemistry and Education. 40-1. 22-25 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] 沢田 正昭: "保存処理" 「開陽丸」 海底遺跡の発掘調査報告II. 121-142 (1990)
• [文献書誌] 沢田 正昭: "藤ノ木古墳ー金銅製馬具" 仏教芸術. 194号. 105-114 (1991)
• [文献書誌] 沢田 正昭: "遺跡・遺物の保存科学" 古代の日本 角川書店. (1991)
• [文献書誌] 工楽 善通: "古代漆工技術の成立と展開" 国学院大学考古学資料館 公開講座「日本文化と漆」. (1990)