研究課題
国際学術研究
1.ヒトにおける血液ガス組成の変化に由来する圧反射への影響について頸動脈洞や大動体に存在する圧反射受容器は、血圧の変化を感受して、循環活動をフィ-ドバック調節し、生体の循環系の働きの恒常性を保つ上に重要な働きをすることがよく知られている。しかしながら、これら圧受容器の研究は、麻酔下にある動物を使った研究がほとんどである。麻酔によって、身体機能とくに循環・呼吸活動が極めて大きな影響をうけることはよく知られている。たとえば、心臓の活動を規制する迷走神経心臓枝の活動は麻酔下では著しく抑制される(vagolytic action)。従って、動物実験によって得られた知見の多くはただちに正常あるいは病的なヒトにおける活動を評価する基礎とならないことが極めて多い。Eckbergによって創始され、われわれがオックスフォ-ド大学生理学研究所のStrange Peterson、Peter Robbinsらと共に改良した頸部吸引装置は、頸部の頸動脈洞の存在部の周囲に気密腔をつくり、陰圧をかけることにより、経血管壁的に血圧を高め頸動脈圧受容器を刺激するものである(Necksaction法)。動物実験のように手術的侵襲を加えることなく、また従来ヒトについて発表されてきた薬物の投与を行うことなく、くりかえし圧受容器刺激をくりかえすことができ、極めて有用な循環系の活動を研究する新しい手段であると思われる。呼吸の活動の主目的は、酸素のとり入れと、二酸化炭素の排出である。この働きは極めてダイナミックであり、数分間その作用が停止すれば、ただちに生体の死をもたらす。また、その酸素、二酸化炭素のガス交換のためには、全身の組織細胞から肺までの間にこれらのガス運搬が円滑に行われなければならない。それを受持つのが循環系の役目である。したがって、酸素、二酸化炭素のガス交換が支障なく遂行されるためには、呼吸と循環系の活動が相対応して車の両輪のようにうまく活動しなければならない。呼吸の活動は、ガス交換を受ける酸素、二酸化炭素の濃度により強力なフィ-ドバック調節を受けることがよく知られている(呼吸の化学調節)。たとえば酸素欠乏になると、頸動脈体や大動脈体などの末梢化学受容器が刺激されて、呼吸中枢が刺激されて、換気活動が高まって、より多くの酸素をとり入れることにより酸素欠乏が解消するような反応がおこる。上述した呼吸と循環系の密接な活動から、Necksuction法による圧受容器刺激の効果が、酸素欠乏、二酸化炭素過剰などの血液ガス組成の変化により影響される可能性が充分に予測される。今日までに、無麻酔の条件下で、ヒトについてこのような研究が行われたことはない。本研究では、(1)血液ガスの変化としては、オックスフォ-ド大学のPeter Robbinsにより開発されたコンピュ-タ-による呼吸気ガス組成の制御装置により、a.肺胞酸素圧ガス200mmHg以上の高酸素環境。b.肺胞酸素圧が50mmHgの低酸素環境。c.肺胞炭酸ガス圧がコントロ-ルより5mmHg高めた高二酸化炭素環境。d.aとcの組合せ。e.bとcの組合。(2)圧受容器の刺激としては、Necksuction圧を、20、40、60mmHgの3段階。(1)と(2)の実験条件を組合せて、合計15種類の実験条件下での実験を行った。被験者は、オックスフォ-ド大学の健康な男子学生8名で、更に2名が実験デ-タの整理に協力した。研究者の交付が年度末で極めて短期間に研究を実施せざるを得ないという悪条件の為、まだ充分な結果の解析ができていない。しかし、現在まで得られた主な結果は、(1)圧受容器の刺激効果は、呼吸相に強い所謂ゲ-ト機構が存在する。(2)二酸化炭素は、どのような実験条件下でも、圧受容器の刺激効果を抑制する。(3)酸素欠乏と二酸化炭素には相乗効果がある。(4)Necksuctionの効果は、40と60mmHgとの間で最大の飽和状態に達する。以上のことが見出されている。2.脳血流の変化と呼吸・循環活動1.の実験中、脳血流とくに、その酸素欠乏による変化が実験結果を左右することが認められ、新しい課題として検討が開始された。
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