研究概要 |
がん化に於ける蛋白質チロシンホスファタ-ゼ(以下,PTPと称ぶ)の役割の解明の為に,私共は,平成1年度迄に,基質特異性の異なる4種類のPTP,即ちPTPー1,ー2,ー3,ー4を分離,同定し,その内,PTPー1,ー2を精製した。その分子量は,いずれの場合も36,000と推定された。 本年度は,主に,次の2点を明らかにした。 1,PTPー1は,従来,得られていたPTPー1よりも数倍高い比活性を持つ分子量67,000の蛋白として精製される事が明らかとなった。これ迄知られている細胞質型のPTPの分子量は,いずれも50,000又は,それ以下であるので,PTPー1は,新しく同定された分子種である可能性が強い。この可能性は,PTPー1が,Zn^<2f>,バナジン酸,酸性化合物に阻害に対して,これ迄,記載のない低い感受性を示す事からも支持される。PTPー1の分子的性質を明らかにする為に,現在,その1次構造を解析中である。予備的な結果ではあるが,GVDGSFLA,ADPLVDLV,NPMVETLGTVL,GFHGHLSGL等の配列を得ている。現在,さらに解析を進めている。PTPー1の1次構造の解明は,PTPー1だけではなく,PTP全体への理解を深めるはずである。 2,PTPー2は,その分子量,Zn,バナジン酸等の阻害剤への高い感受性から判断して,人胎盤PTPー1B型の酵素である事が明らかとなった。文献的に考察すると,PTPー2は,精製過程で,既にプロテア-ゼによる修飾を受けている。PTPー2の真の酵素学的,蛋白質化学的性質を明らかにする為には,nativeなPTPー2の精製が必要である。 PTPー1,PTPー2共に,その精製に関して新たな問題が生じた為に,今年度中に達成する事を予定していたPTPー1,ー2の抗体やcDNAの単離は出来なかった。来年度は,PTPー1を中心にして解析を進めたい。
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