研究概要 |
近年のがん遺伝子研究によって、発癌や癌の進展には癌遺伝子の活性化とともに癌抑制遺伝子の不活化も関与していることが示されている。我々は白血病細胞において癌遺伝子と癌抑制遺伝子の相互作用を解析する目的で,p53遺伝子,ABL遺伝子,RAS遺伝子の変異について検討した。p53遺伝子は癌抑制遺伝子と考えられているが,白血病への関与はまだ不明である。我々の検討の結果,患者由来白血病細胞においてはその10%程度にp53遺伝子の不活化を認めたが,樹立白血病細胞株においては80%以上にp53遺伝子の不活化を検出した。このような現象は固形がんと同様であり,p53遺伝子と細胞の不死化との関連が注目される。慢性骨髄性白血病(CML)においては慢性期にABL遺伝子がBCR遺伝子と融合していることが知られているが、CMLが急性転化を起こす分子機構については全く不明である.我々はCML急性転化例10例を検討し,そのうち2例にp53遺伝子の不活化を検出した。p53遺伝子の不活化が急性転化の本質的要因であるか否かは不明であるが,BCR/ABL遺伝子とp53遺伝子がCMLの発症や進展に重要な関与をしている症例が存在することが示された。我々は白血病細胞で高頻度にRAS遺伝子が点突然変異によって活性化されていることを報告してきた。RAS遺伝子に変異を有する白血病細胞においてp53遺伝子の変異を解析した結果、2例においてp53遺伝子の不活化が観察された。これらの結果は、白血病の発症や進展にRAS遺伝子とp53遺伝子が相互に作用する症例が存在することを示している。以上の知見から,白血病においても癌遺伝子と癌抑制遺伝子が複雑にその発症や進展に関与していることが示された。
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