研究概要 |
乳癌好発系マウスに自然発症したリンパ性白血病の成立には,LTRのU3部分に規則的な組換えを生じたマウス乳癌ウイルス(以下MMTV)変異株の関与が推測されており,LTR変異によりウイルスの発癌能が,乳腺上皮から、リンパ球へと劇的に変化した系と考えられていた。本研究においては,組換えプロウイルスを用いた動物実験により上記の仮説を直接証明した。野生型感染性MMTVプロウイルス(H.Varmusより入手).のLTRを変異株由来のものに変化させて作成した変異ウイルスをBALB/Cマウスに感染させたところ、4ケ月の潜伏期を経て、Thymoma(5例)、lymphoma(2例)が発症し,癌細胞ゲノム中に1〜数コピ-の変異プロウイルスの組込みが確認された。対照として用いたウイルス非感染群では、白血病,乳癌のいずれも、発症は認められず,さらに野生型MMTV感染群では、乳癌の発症が予想通り認められた。本研究により,リンパ性白血病株中に頻繁に認められていたMMTV変異株が実際に白血病の成因として寄与していた事が証明された。今後,白血病誘導に働いたプロトオンコジ-ンを明らかにする事が必要である。さらにMMTV誘発白血病細胞中で発現しているMMTV関連RNAをNorthen Blotにより解析したところ、乳癌中で発現しているものとは異なり,サブゲノミックRNA(env遺伝子をcode)が欠如し、かわりに、1.7Kbの短いRNA(LTR中の翻訳可能領域よりなる)が生じていた。この事実は、リンパ球ではウイルスRNAが,乳腺上皮における状況とは異なったAlternative Splicingをうける事を示している。
|