研究概要 |
NIH3T3線維芽細胞に対するPDGFーA鎖およびーB鎖のトランスフォ-ミング活性は,後者が著しく高いが,多くのヒト腫瘍細胞においてはPDGFーA鎖の発現が見られ,オ-トクリン型の受容体活性が認められた。ヒトPDGF受容体は2種類(α型およびβ型)存在し,3種類のPDGFアイソフォ-ム(AA,AB,BB)に対する親和性が異なる。新しく見い出されたα型受容体のみA鎖と高親和性を有し,β型と独立して種々の生物学的機能を誘導することができる。α型またはβ型受容体のみを発現させた造血幹細胞に,PDGFーA鎖またはーB鎖を同時に発現させ,ヌ-ドマウスでの腫瘍形成能を検討した。B鎖はいづれの受容体発現細胞においても腫瘍形成がみられたが,A鎖はα型受容体発現細胞においてのみ腫瘍を形成させることができた。しかしα型受容体発現細胞におけるA鎖の腫瘍形成能は,B鎖によるものとは明らかな違いは見られなかった。 本年度,上述のごとくPDGF受容体発現造血幹細胞を用い,ヌ-ドマウスでのオ-トクリン型腫瘍形成能を検討したばかりではなく,cーfms/CSFー1受容体とPDGF受容体のキメラ遺伝子により,これらの受容体ファミリ-に特徴的なキナ-ゼ挿入部の機能解析を発表した。また免疫グロブリン様構造をもつα型およびβ型受容体のリガンド結合部のキメラにより,PDGFーAA結合部の同定を行ない発表した。さらに種々の細胞系での,細胞特異的受容体発現調節の存在を明らかにし発表した。今後PDGF受容体を介する形質転換能の解析には,上皮細胞を用いたcDNA発現系が必要と考えられるが,本年度に確立された実験系を用いさらに詳細なキメラ遺伝子による受容体の構造と機能の解析は,ヒト腫瘍細胞におけるPDGF受容体を介する形質転換の機構の解明に有用である。
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