研究概要 |
本邦のB細胞腫瘍の地理病理学的特性および発病背景要因を解明する目的で甲状腺リンパ腫,慢性結核性膿胸患者に発生する胸膜リンパ腫,脳リンパ腫,肝リンパ腫を主な対象とした。 1.甲状腺リンパ腫:(1)甲状腺リンパ腫は成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)非汚染地区(神戸隈病院)では全例B細胞性である。ATL汚染地区(別府野口病院)では組織亜型の特徴からT細胞性と考えられる症例が少なからずみられる。凍結材料,血清を収集し,解析を行いつつある。(2)甲状腺リンパ腫症例についてPCR法を用いてウィルスゲノムのintegrationを検討すると約半数の症例が陽性であった。HTLVー1についての検討を準備中である。又,in situハイブリダイゼ-ション法を併せて行う。 2.膿胸患者に発生する胸膜リンパ腫:(1)発病背景要因を明らかにする目的で症例・対照研究を行ったところ胸膜リンパ腫発症例は膿胸のみの群に比し,人工気胸をうけた症例の頻度が高いようである。喫煙は影響していない。(2)膿胸から発生する胸膜リンパ腫の予後因子としてはperformans statusと血清のGPT値が重要であることが判明した。 3.脳リンパ腫 全国調査を行い約100例を検討したところ全例B細胞性であった。AIDS,臓器移植例はなかった。 4.肝リンパ腫 全国調査を行い,結果を欧米例と比較したところ,本邦例の44%に肝炎(HB陽性)あるいは肝硬変の既往があり,欧米例では7.5%であった。この頻度の差は肝細胞癌患者における本邦と欧米症例の差に近似している。肝リンパ腫の発症要因の一つにHBウィルス感染がある可能性がある。引き続き調査・検討中である。
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