研究概要 |
【研究の意義】Transforming Growth Factorーβ(TGFーβ)の持つ生理活性の多様性が注目されている.TGFーβのもつ正常造血細胞の増殖に対する抑制性因子としての役割を明らかにしつつ,造血器腫瘍に対する抗腫瘍効果を検討し,臨床応用への可能性を探る. 【TGFーβの造血幹細胞,支持細胞に対する作用の検討】TGFーβ1は,種々の造血因子存在下でのマウス造血前駆細胞のコロニ-形成,液体培養系での増殖を濃度依存性に抑制した.これらの反応は,TGFーβ1に対する特異的レセプタ-(Type I receptor)を介して行なわれることが明らかになった.in vivoでの造血を最もよく反映できる長期骨髄培養系では,形成される間質系造血支持細胞と,造血幹細胞から構成される造血の場(Cobblestone Islands)の形成を,TGFーβ1は強く抑制した.TGFーβ1は未熟造血幹細胞に作用し,負の増殖制御因子として重要な役割を持つことが明らかになった. 【TGFーβの白血病細胞に対する増殖抑制効果の検討】当研究者らが樹立した単球性白血病細胞株JOSKーIの増殖をTGFーβ1は濃度依存性に抑制した.細胞回転の検討から,TGFーβ1は細胞周期のG1/S期をブロックすることにより細胞増殖を抑制するものと推定された.またTGFーβ1により癌原遺伝子CーMYC発現量の抑制も観察された.現在TGFーβ1の作用とRB遺伝子等の癌抑制性遺伝子発現との関連について検索をすすめている. 【白血病担癌動物系の確立】従来ヒト白血病細胞担癌動物の確立は困難とされてきた.JOSKーI細胞をBalb/cあるいはKSNヌ-ドマウスに皮下接種もしくは腹腔内注入し,腫瘤形成型および腹水貯留型ヒト白血病細胞担癌動物の作製,安定した継代移植に成功した.現在in vivoでのTGFーβ1の白血病細胞増殖に対する作用を,種々の実験モデルを用いて探索中である.
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