研究概要 |
肝細胞増殖因子(HGF)の作用機序を明らかにするために,肝癌や肝障害などの肝臓の種々の病態時におけるHGFの遺伝子の発現調節について,mRNA発現レベルの解析を行なった. 1.病態モデルとしてラットを使用するために,ラットHGFのcDNAを単離した.cDNAの構造を解析した結果,ラットHGFはヒトHGFとアミノ酸配列において約90%の高い相同性を示した.従ってHGFは進化の過程でよく保存され,ラットとヒトにおける機能は同じであると考えられる. 2.ヒトおよびラットcDNAをプロ-ブに用いたノザンブロッティング法により,種々の細胞株および組織のHGFmRNAの解析を行い以下の結果を得た. (1)ヒト胎児肺由来繊維芽細胞(MRCー5)などの細胞株においてHGFmRNAの高い発現がみられたが,これらに比較して調べた限りの肝癌由来細胞株では発現が認められなかった.従ってHGFはこれらの肝癌由来細胞株の増殖には関与していないと考えられる. (2)四塩化炭素あるいはガラクトサミン投与により肝障害を起こしたラットでは,肝臓および脾臓でHGFmRNAが顕著に増加した.HGFはin vitroにおいて初代培養肝細胞の増殖を促進する活性をもつ因子であるが,肝障害を起こしたラットにおいてmRNAの増加がみられたことから,HGFはin vivoにおいても肝障害後の肝再生において肝細胞の増殖に役割を果たすことが示唆された. (3)肝部分切除ラットでは,肝臓と脾臓でHGFmRNAの増加が見られたが,その増加はシャム手術を施したラットでの増加と同程度であった.従ってHGFが肝部分切除後の肝再生に関与しているかは不明である.
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