研究概要 |
raf(Ser/Thrキナ-ゼ)の欠損したショウジョウバエ突然変異体を分離し、細胞増殖制御や胚両端部の分化決定への関与など、rafの多機能性を明らかにした。更に、rafの下流因子を明らかにするためにraf欠損変異を優性に抑圧する突然変異を検索し、dfrー1とdfrー3の2遺伝子座を同定した。本年度は、dfrー1を中心にその機能解析を行なった。 胚末端部の分化決定には、tsl,trk,fs(1)ph→tor(受容体Tyrキナ-ゼ)→rafというシグナル伝達のカスケ-ドによって胚末端部の位置情報が核に伝達されて、tll遺伝子の発現制御が行なわれると示唆されている。in situハイブリダイゼ-ションにより、これらの欠損胚ではtllの尾端部の発現が消失するのに対し、頭頂部では発現領域の拡大が認められた。つまり、このシグナル伝達系はtllの発現を尾端部では正に、頭頂部では負に制御すると考えられる。dfrー1^<Su>変異は、上記突然変異胚の尾端部の異常のみを回復するが、これはtllの尾端部での活性化による。頭頂部におけるtll発現異常には影響がなかった。一方、dfrー1^<Su>変異の復帰突然変異を誘発・分離したところ、劣性致死となり、raf変異体と同様の細胞増殖異常と胚両端部の欠損が認められた。このことは、dfrー1の正常機能がこれらの過程に必須であることを示している。このような解析から、dfrー1はrafの下流因子であると同定し、また、tsl,trk,fs(1)ph→tor→raf→dfrー1→tllというシグナル伝達のカスケ-ドを予想した。なお、tor(受容体)とその上流の遺伝子の変異体では細胞増殖の異常は認められないので、細胞増殖の制御に関与する未知の受容体とそのリガンドがrafの上流に予想される。現在、その遺伝子産物を同定すべく、dfrー1とdfrー3の遺伝子単離を進めつつある。
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