研究概要 |
本研究では,水害時の避難行動や情報の伝達方法を分析するため,プロダクションシステムやファジィ推論といったAI手法を駆使して,水害意識や経験などの違いを考慮にいれた個人レベルの水害避難行動モデルを開発した.本研究で得られた成果を以下に相約する. (a)避難行動のモデル化に当たっては,住民の水害時の避難行動を規定する要因を初期条件,外的要因,内的要因の3つに分類・整理した.初期条件については,特に,水害意識の型を定義し,過去の水害経験を水害意識の型の変化を通じて表現することにより,水害経験シミュレ-ションの可能性を示した.また,内的要因を表現するため危険認識度・関心度を定義するとともに,外的要因である情報を危険認識度に影響を与えるタイプのものと直接避難行動をうながす「きっかけ情報」とに分け,これらの相互作用をプロダクションル-ルおよびファジィ推論ル-ルを用いて表現することで,個々の住民の避難行動に関する判断過程をモデル化した.この方法により,住民の自主避難や避灘命令に従わない場合といった,現地調査では多々指摘されているにも関わらず従来のシミュレ-ション手法では再現できなかった状態を再現することに成功した. (b)具体的なモデルの設計に当たっては,水害時の避難行動を,情報入手状況を取り扱う過程,避難開始の意志決定過程,避灘場所・経路の決定過程,避難行動過程の4つの過程に分割し,プロダクションシステム,ファジィ推論システム,協調問題解決手法およびオブジェクト指向プログラミングを取り入れることにより,水害避難行動を計算機上でシミュレ-トする環境を提供した. (c)開発したモデルを用いて昭和57年の長崎水害時の避灘行動シミュレ-ションを行い,モデルの妥当性の検証と問題点の抽出を行った.
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