研究概要 |
1.事例研究ー越境大気汚染問題の事例研究を行った結果,問題の性質,レベルや科学的知見の程度等によって,解決の方法・内容が異なることがわかった。また研究対象事例は,(1)汚染の影響が甚大で問題に関する科学的知見が高い場合,(2)汚染の影響は甚大だが科学的知見がさほど高くない場合,(3)汚染の影響は甚大だといわれているが科学的知見がさほど高くない場合,(4)汚染の影響は存在するといわれているが科学的知見が低い場合に分類できた。2.国際的合意を促進する要因としては,(1)汚染の影響中,特に人間への影響が重大であること,(2)影響がすでに科学的に証明されており,又は証明される可能性が高いこと,(3)関係国の経済的・技術的レベルが等しいか,又は近似していること,(4)経済的技術的不利国が不利にならないようにすることについて合意が存在すること,(5)国際機関がイニシャチブをとることがあげられる。3.科学的不確実性下の法的アプロ-チー実証的研究から明らかになったのは,ソフトロ-・アプロ-チとハ-ドロ-アプロ-チである。前者は,国際会議等の採択する宣言や行動計画等で,法的拘束力はないが関係国に一定の行動指針を与えるのに対し,後者は,条約や協定等で関係国を法的に拘束する。科学的知見が低いときの予見的政策としては,前者のアプロ-チから出発する方が国際的合意を得やすいことがわかった。後者のアフロ-チについても,形式は条約でも内容的には,科学調査・観測・情報交換等についての国際協力の枠組みを設定するだけで,規制的側面を当面は排除し,徐々に科学的デ-タを蓄積し,科学的知見が高まり,又は確立した段階で細目的な規制を行っていく方が国際的合意を得やすいことがわかった。また国際機関,特に当該条約が設立する国際機関が,ハ-ドロ-(とりわけ基準や規則の作成,修正,実施)の分野で果たす役割が大きいことも判明した。
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