研究概要 |
中国では主要なエネルギ-源は石炭であり,石炭燃焼に伴う激しい粉じんや硫黄酸化物による大気汚染が生じている。一方,日本では化石燃料燃焼に伴う硫黄酸化物による大気汚染は燃料転換や脱硫設備の設置により克服したが,最近では硫黄酸化物の大発生源の存在しない日本海側地域で,冬季に降水の酸性化が見いだされ,東アジア地域からの硫黄酸化物の長距離輸送による越境汚染が懸念されている。 東アジア地域からの硫黄酸化物の長距離輸送による越境汚染の検出・評価には,燃料の種類や汚染物質の種類別に硫黄酸化物の発生源を区別するためのトレ-サ-が要である。本研究の目的は硫黄同位体比やフッ化物の越境汚染の検出や汚染物質の発生地推定のためのトレ-サ-としての利用可能性を明らかにすること,および,越境汚染の原因物質とされている二酸化硫黄の長距離輸送中の大気過程をシミュレ-トするための土壌成分への二作化硫黄やフッ化水素の沈着挙動を明らかにすることである。 越境汚染のトレ-サ-の推定:これまでに得た中国現地での浮遊粒子状物質や日本に飛来した黄砂の成分分析および中国現地の降水等の分折デ-タから,フッ化物イオンがトレ-サ-となり得る可能性を明らかにした。現在,日本海側の離島局で北西風卓越時に浮遊粒子状物質と二酸化硫黄,フッ化物の同時捕集を意図した試料採取を継続中である。 硫黄酸化物の沈着挙動の解明:モデル土壌に対する二酸硫黄の沈着実験を行い,(1)土壌の塩基性が沈着速度に大きく影響すること,(2)大気中で予想される低濃度では,初期の高い沈着速度が持続すると考えられること,(3)土壌への沈着は主として化学吸着であること,(4)二酸化硫黄で飽和に達しても,新らたにアンモニアガスを通気すれば土壌の沈着活性が復活することなどを明らかにした。
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