研究概要 |
高効率の光電変換膜の構築を目的として,本年度は顕著な強誘電性高分子であるP(VDFーTrFE)に光導電性色素であるビニルカルバゾ-ルVKとトリニトロフルオレノンTNFをド-プした複合薄膜の光電導性に及ぼす分極の影響を調べた.また,効率のよい光電子発生分子系の開発を目的としていくつかの新しい分子系の開発を行った.さらに,焦電効果を利用する微小熱検出の可能性と,焦電性と圧電性の低温特性と高温特性のよい薄膜を検討した.P(VDFーTrFE)複合膜の光電導性に関して次のことが分かった.すなわち膜をポ-リングによって分極を一定方向に揃えた場合にはじめて大きい光電導性が生じ,光電流の大きさは分極Prが小さい場合にはほぼ分極量に比例し,大きい場合には一定となる.一方,低温での光誘起ESR吸収を与える電子と正孔の発生確率はポ-リングをの有無で大きい影響を受けない.これは,光によるキャリヤ-の発生初期過程(電子ー正孔対の発生)では局所的な電場に大きく影響されること,電子ー正孔対の分離,あるいは膜中の輸送過程で方向性のある強誘電性の内部電場に影響されることを示している.このような強誘電性高分子薄膜内の電子,正孔の動的挙動を今年度に導入した窒素ガスレ-ザ-によるパルス光照射とディジタル・オシロスコ-プによって定量的に調べている. 興味ある光電物性をもつ複合薄膜を開発する目的で,芳香族ジアミン系ラジカル塩,可溶性フタロシアニン系金属錯体,ポリシランなどを合成し,複合薄膜の光学的,電気的,磁気的性質を調べた。 今後,強誘電性高分子と色素複合薄膜の光電変換における電子の発生,消滅,輸送現象を動的に測定し,それぞれのメカニズムを明らかにするとともに,電荷の発生と薄膜表裏への電荷輸送を効率よく行うドナ-・アクセプタ-分子系の探索,複合膜の非線形光学効果の追求,複合薄膜の焦電効果の応用素子の研究を行う予定である.
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