研究概要 |
細胞が外部情報に応じて機能を調節する際には、細胞膜に存在するアデニル酸シクラ-ゼによりアデノシン3'、5'ー環状リン酸(cAMP:第2メッセンジャ-)が生成され、このcAMPが細胞内の酵素系の機能を調節している。また、細菌では、cAMPが遺伝子発現の調節の役目も果たしている。従って、cAMPを効率的に分解ならびに生成する人工材料の開発は、細胞機能の制御の観点から極めて重要である。本研究では、温和な条件でcAMPを開裂する触媒系を開発することを目的とし、特にコバルト(III)錯体の触媒活性について追突した。 各種のコバルト(III)錯体を触媒とし、cAMPの加水分解を、pH7、50℃で行なった結果、特に[Co(trien)(H_2O)_2]^<3+>錯体ならびに[Co(tme)_2(H_2O_2)]^<3+>錯体(trien,トリエチレンテトラミン;tme,1,1,2,2ーテトラメチルエチレンジアミン)が、cAMPの加水分解を著しく加速することを見た出した。触媒活性は極めて大きく、触媒不在下における反応速度に対する加速効果は、それぞれ7億倍、3億倍であった。こうして、錯体触媒不在下においては、半減期が76万年であり極めて安定なcAMPが、錯体触媒存在下では半減期9.6時間、15時間で迅速に加水分解された。また、[Co(en)_2(H_2O)_2]^<3+>錯体(en,エチレンジアミン)も大きな触媒効果を示し、一千万倍もの加速効果を示した。しかも、反応の生成作の分布の(アデノシンのモノリン酸であるかアデノシンまで加水分解されるか)も、錯体構造に顕著に依存する。すなわち、アミン配位子を適切に分子設計することにより、一層優れた機能を有する錯体触媒が開発されることが強く示唆された。このように、これらのコバルト(III)錯体が人工ホスホエステラ-ゼの活性中心として大いに有望であることが明らかとなった。
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