研究概要 |
1.研究目的 有機磁性体設計の方法論は,我々のこれ迄の研究を含む多くの研究によって実験理論の両面からかなり明らかになっているので,現在有機磁性体の急務は,強磁性的振舞を示す磁性高分子に対して(1)微視的立場からそれらの磁性発現機構磁気持性を解明し,(b)それらのスピン集積形態を同定すること,(c)巨視的な有機強磁性の直前の段階ともいうべき有機超磁性スピン秩序の構築を具体的に行い,有機磁性体が未来技術として新規な機能性を具現しうるかどうかを例示することである。本研究はこれら焦眉の課題に理論と実験の両面からアプロ-チするものである。2.研究成果 磁気持性を微視的立場から解明するには高感度の磁気共鳴法が優れているので,実験的方法としては主としてESR及びENDOR(電子ー核二重共鳴)法を採用し,磁気的性質の巨視的量の特定に適した磁化率測定を併用した。今年度はまず,高分子π共役系分子構造がπトポロジ-的対称性を満足している可能性が極めて高い磁性高分子の代表例の一つとして,ピレンやベンゼン環を骨格とした脱水素縮合多核芳香族(COPNA)ポリマ-を採用した。観測された特異なESRスペクトルとその温度変化(3K〜300℃)温度降下に伴う共鳴磁場の低磁場シフト)はランダム磁性体に固有の挙動に酷似しており,強磁性体の前段階の一つともいえるスピングラス状態の形成を強く示唆した。脱水素COPNAポリマ-は,いずれも上記の特異なESRスペクトルの他にg〜2に有機常磁性種に固有の信号を与え,それらの線形解析の結果,特異なESRスペクトルの強度が大きい程ロ-レシツ成分が優勢であることがわかった。また常磁性スピンサイトの構造を決定することは不対電子のπトポロジ-対称性と高分子内及び分子間のスピン整列との関連を解明する重要な情報なので,常磁性スピンサイトにENDOR法を適用し,局所構造がトリアルメチルラジカル型であることを明らかにした。もう一方の代表例として安定ニトロキシド基をもつポリフェラレアセチレンを採用し,スピン多重度が8〜9重項であることを実証した。
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