研究概要 |
光学異性体の認識と分離は医薬品,食品,香料等のライフサイエンスの分野のみならず広範な分野において重要なプロセスとなりつつある。近年,クロマトグラフィ-法による光学分割法が精力的に研究されているが,その一方では,大量のラセミ化合物の分離といった見地から,操作性,連続性産性および省エネルギ-性に優れている膜分離プロセスによる光学活性物質の単離に期待が寄せられている。 本研究では,光学異性体の認識部位と透過経路を高度に組織化した高分子膜の分子設計を行い,膜の分子認識機能と選択透過機能を複合的に制御することを試みた。αーヘリックス構造を形成するポリアミノ酸の不斉性とその配向性に着目し,ポリアミノ酸側鎖に両親媒性化合物を導入した。このポリアミノ酸誘導体のキャスト膜の構造を解析するとともに光学異性体認識機能を評価した。キャスト膜のFTーIR測定からポリアミノ酸誘導体がヘリックス構造を形成していることがわかり,さらに偏光顕微鏡観察の結果から,液晶組織が観察され膜内でヘリックスの長軸方向にポリマ-が配向していることが明らかとなった。また,ポリアミノ酸誘導体の側鎖中央部に存在する発色団に直線二色性がみられることから側鎖が巨視的異方性を有しており,主鎖の配向に加えて側鎖部分も秩序的な構造を形成していることが示された。トリプトファンおよびチロシンのラセミ体水溶液から,濃度勾配を駆動力にポリLーグルタミン酸誘導体膜の選択透過性を評価した結果,この膜はいずれの場合もLー体にくらべDー体を優先的に透過させることがわかった。膜のキャスト条件、透過温度およびキャスト膜の熱処理などにより透過選択性が変化し、ほぼ完全な光学分割も可能になった。したがって、主鎖あるいは側鎖部分の組織化構造が光学異性体の選択的透過に大きな影響を与えることが明らかになった。今後この光学分割の機構の検討が必要であろう。
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