ウラン化合物に対するバンド理論には、構成原子の原子番号が大きいので相対論的効果を考慮に入れる必要がある。本研究においては、先ず、セルフーコンシステント相対論的対称化APW法を完成させた。さらに、射影演算子の方法により対称化し、通常のシンモルフィック空間群のみならず、らせん軸や映進面をもつ非シンモルフィック空間群にも適用できるように二重積空間群を用いて方法を一般化した。これにより、結晶内の電子状態の対称性を明らかにすることができるばかりでなく、固有値を決定する行列の次元を下げ、複物な結晶構造をもつ化合物に対しても、セルフーコンシステント計算を実行することが容易になった。5f電子に対する遍歴電子モデルに基ずき、局所密度近似による交換・相関ポテンシャルを用いて、ウラン金属及び二つのウラン化合物(UC、UB_<12>)にこの方法を適用して電子エネルギ-バンド構造を計算し、フェルミ面を導き、ド・ハ-スーヴァン・アルフェン効果の実験結果の説明を試みた。ウラン金属に対する理論と実験の一致は良く、5f電子が遍歴的となっていることが結論される。UCのバンド構造は半金属的であって、そのフェルミ面は小さいホ-ル面と電子面から成る。ホ-ル面はCの2pバンドから作られているが、電子面はほぼ純粋な5fバンドから作られている。この理論的結果により、ド・ハ-スーヴァン・アルフェン効果の実験結果が良く説明された。UB_<12>に対する理論と実験の一致も良好であり、遍歴電子モデルの正しさが証明された。ウラン金属とUCの電子比熱に対する計算値は実験値の数分の一にすぎないが、UB_<12>に対しては計算値は実験値に20%以内で一致する。セリウム化合物に対してもこの方法を適用することができる。その結果、セリウム化合物で4f電子が遍歴的となっている事実が、CeSn_3とCeNiにおいて初めて確認された。
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