研究概要 |
本研究では坐骨神経移植による視神経再生の物質的機序を知るため、神経移植の際に切断端と移植片の吻合部にラミニンを局所添加することによって軸索再生する網膜神経節細胞の数が増えるかどうかを逆行性標識法を用いて検討した。と同時に軸索再生した神経節細胞の樹状突起の形態についても調査した。 生後8ー9週の成熟ハムスタ-の左視神経を麻酔下で切断し、左側の坐骨神経を移植する際,その接合部に0.11%ラミニンをゼラチンスポンジにつけて(0.1ul未満)局所添加した。右側の視神経切断端には以前と同様の坐骨神経移植のみを行った。2ー5週間の生存の後、左右各々の移植片の接合部から3ー5mm中枢側にFITCデキストランの結晶かあるいは30%溶液(5%DMSO)に浸したゼラチンスポンジを挿入した。48ー72時間の生存の後、深麻酔下でまず生食,ついで4%パラフォルムアルデヒドで潅流した。直ちに眼球を摘出し、15分間4%パラフォルムアルデヒドで後固定の後、0.1M pH7.4のPBSで洗浄しながら網膜全伸展標本を作成し、グリセリンー0.1MPBS混合液(9:1)で封入した。逆行性に標識された神経細胞の数とその形態を蛍光顕微鏡にて(Bーfilter)検鏡撮影した結果、以下の点が明らかになった。1)逆行性に標識された軸索再生細胞の数のラミニン添加側とコントロ-ル側での比率は、5例の実験で1.23,1.22,1.13,1.02,1.97といずれも、ラミニン添加側のほうが多い傾向が見られた。2)軸索再生した神経節細胞には細胞体が膨化したもの、樹状突起の退縮したものなど変性過程を示すの異常所見を示すものもあるが、正常網膜と同様の大きさのの細胞体を持ち正常と同様の樹状突起形態を示すものも数多く存在した。また正常では見られない細く湾曲した樹状突起も見られおそらく再生したものと思われる。3)正常な形態を示す細胞には細胞体と樹状突起の内網状層でのレベルの違いが明らかで、いわゆる生理学的なON中心型、OFF中心型受容野をもつものに各々対応するものと考えられる。
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