研究概要 |
ハムスタ-卵受精時の精子・卵結合の経膜的情報伝達機序に関して,これまでの我々の研究は,GTP結合蛋白の活性化→イノシト-ルリン脂質の分解→イノシト-ル1,4,5三リン酸(IP_3)の産生→IP_3による細胞内カルシウムイオン(Ca)のストアからの遊離→細胞内Ca濃度の上昇,という系を結論づけた。本研究では,細胞内Ca遊離機構の解析と,この機構の卵成熟過程に於ける発達の追跡を行なった。IP_3又はCaイオンをマイクロピペットから電流パルスで細胞内に微量注入し,細胞内Ca増加をCa結合性蛍光試料fura αを用いて画像解析し,時間的及び空間的変化を記録した。(1)IP_3ーinduced Ca release(IICR):IP_3の注入電流が1秒,0.5〜0.7nAパルスであると,注入部位に局所的なCa増加(〜200nM)がおこり,パルスを0.8〜10nAにわずかに上げると,allーorーnone的に卵全体に伝播するCa遊離が誘発された(ピ-クCa濃度500〜600nM)。この反応の直後90〜120秒間は不応期があり,CaストアのCa再とりこみに要する時間と考えられた。(2)Caーinduced Ca release(CICR):Caイオン注入に際して,2秒,1nAのパルスでallーorーnone的に卵全体に伝播するCa遊離がおこり,その直後に2分程の不応期を認めた。Ca自身によるCa遊離機構(CICR)は筋小胞体でよく知られ,caffeineによって促進され,ryanodineで抑制されるが,ハムスタ-卵ではこれらは無効であった。別のタイプのCICRが存在すること示唆された。(3)卵成熟過程でのCa遊離機構の発達:PMSゴナドトロピン注射後48時間で卵巣卵胞から得た未成熟卵では,IP_3注入により局所的なCa遊離しかおこらず,ピ-クCa濃度は1nAパルス注入で200nM以下,5nAパルス注入でも300nMであった。PMSG注射後48時間でhCGを注射すると約14時間で成熟卵の排卵がおこるが,IICR機構はこの間徐々に発達し,hCG注射後約10時間の時点で,成熟卵にみられるallーorーnone的な伝播性のCa遊離が発達し,受精能獲得の一要因であることが明らかにされた。
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