研究概要 |
人工衛星に搭載したアルティメ-タ-(マイクロ波を利用した海面高度計)は,海面高度という力学的な物理量を直接測定することができるという点で,海洋物理学にとって画期的なものである。このアルティメ-タ-・デ-タを利用する際の最大の問題は,人工衛星の軌道高度の測定誤差が大きいことであるが,それも最近,最適内挿法を用いることによって解決できることが示された。この研究では,人工衛星GEOSATに搭載されたアルティメ-タ-による海面高度デ-タを,最適内挿法を用いて解析する作業を進めている。平成元年度には,黒潮や黒潮続流などの強い平均流を含む日本南東海域での海面変動を検出した。今年度は,対象海域を北太平洋の西半分の海域に拡大し,大きな空間スケ-ルの変動から中規模擾乱に至るまでの広い波数空間にわたって,海面変動の特微を調べ,それによって,このデ-タ処理方法の有効性を明らかにすることを目指した。 具体的には,北太平洋の西半分を対象海域として選び,まず1986年11月から1年間分のGEOSATアルティメ-タ-・デ-タを整理・編集した。次に,繰り返し観測周期である17日おきに力学的海面高度の時間変動成分を求めた。得られた海面高度の時間変動成分の時系列から,黒潮続流の存在する中緯度帯(30゚ー40゚N)で,変動の振幅が最も大きいこと,変動が極めて規則的に西に移動していること,などが分かった。特に興味を引くのは,200日間にわたって並進し続けた二つの低気圧性の渦がある時突然合体して一つの渦になり,同時に100kmほど南に急に移動する現象である。この変化は,昨年度の日本近海に関する解析で得られた,黒潮続流の蛇行から低気圧性の渦が切離した現象を時間変動成分の場で見たものである。渦と平均流および渦と渦の間の相互作用の存在を暗示しているが,その力学的な解明はこれからの課題である。
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