大気海洋相互作用の仕組みを理解するには大気変動に対する海洋の応答過程を解明することが重要であるが、北太平洋における1つの重要な応答現象として、黒潮の大蛇行とそれに伴う熱や物質の輸送現象がある。鳥羽ら(1989)は大蛇行時での熱赤外画像を解析し、本州南海域の熱収支や水塊形成に重要な影響を与える大規模な"Warm Outbreak"が発生することを報告している。本研究では衛星によって初めてとらえられたこの輸送現象を、黒潮大蛇行時の流路変動に伴う実質としての海水のラグランジュ輸送に起因するという仮説をたて、大蛇行時の流速場の数値実験を行い、更にオイラ-・ラグランジュ法による粒子運動追跡数値シミュレ-ションを行った。このことは、本州南海域での水塊形成機構やまた画像にとらえられた現象の物理構造を理解する上で重要である。 この結果、大蛇行流路へ移行する小蛇行の東進に伴いその周辺域で粒子群の相対的な回転運動が局所的に加速され、効果的なcrossーstream exchangeが発生することが分かった。つまり、東進する小蛇行の前面では蛇行の峰付近において外洋水が黒潮流域へ侵入し、谷付近では黒潮水が外洋へ流出するという交換が生じる。蛇行流路の後面では峰付近において黒潮水が外洋へ流出し、谷付近では外洋水が黒潮流域へ侵入する。そして大蛇行流路に至る直前には日本南岸からの小蛇行への渦度の補給が活発になるため、このcrossーstream exchangeが増大し、そのため鳥羽らの指摘した大規模な"Warm Outbreak"が発生することを初めて解明した。大蛇行流路完成以降は、蛇行流路の東西振動に伴って蛇行域の黒潮水が切離し外洋水と混合する。その後しばらくして大蛇行流路が復元される時、上と同様な機構によって大規模な"Warm Outbreak"が発生することが明かとなった。この結果は観測結果と合致している。なお、この一連の研究によって大蛇行の切離機構も解明出来たことを付言しておく。
|