研究概要 |
本研究では、ナフタレンおよびアントラセンの1,4位を6炭素架橋した[6](1,4)ナフタレノファン(1),[6](1,4)アントラセノファン(2)の反応性について研究を行い,これらが歪みのない芳香族のみならずシクロファンの化学においても全く新奇な、極めて特異な反応性を示すことを明らかにした。 1.光化学反応:(1)は光照射により、デュワ-型原子価異性体に異性化することを見いだした。ところがアントラセノファン(2)の場合(λ〉350nm)、芳香環の1,2位で非立体選択的に[2+2]二量化した5種のシクロブタンダイマ-を与えることが分かった。特にシン体のシクロブタン結合は著しく長く(1.637(5)A)、これはthroughーbond相互作用によるものと考えられる。 2.酸触媒反応:ナフタレノファン(1)を触媒量のトリフルオロ酢酸と処理すると、少量の三量体とともに二量体が主生成物として得られた。これらの片方の成分において架橋鎖が移動していないことから、1,2ーシフトがおこる前に(1)への親電子攻撃がおこったことが示唆される。さらにアントラセノファン(2)の場合は、三量体が主生成物となり、異性体や二量体は検出できなかった。 3.親電子オレフィン/アセチレンとの付加反応:(1),(2)はテトラシアノエチレンと芳香環の1,2位で反応した[2+2]付加物を与えた。さらにジシアノアセチレンとの反応でも[2+2]付加物やエン反応生成物を与えることを見いだした。より反応性の低いアセチレンジカルボン酸ジメチルとは、1,3双極子付加を行うことが分かった。 4.以上の反応性は分子軌道計算の結果から示唆されるものと、定性的には一致することを明らかにした。
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