研究概要 |
ラット交感神経細胞は、培養心臓細胞に由来する分化因子により、アドレナリン作動性であったものがコリン作動性に変換される事が知られている。最近この分化因子が、白血病阻止因子(LIF)と同一分子である事が証明された。LIFは、交感神経に働き,アセチルコリン合成のみならず、各種ペプチドの含量を上昇させる事が知られていた。それらのRNAレベルの変動を観察したところ、実際LIFは培養した交感神経細胞中のVIP、サブスタンスP、ソマトスタチン及び4.0kbアセチルコリン合成酵素のmRNA量を著しく上昇させることが判明した。興味深い点として、いずれのmRNAも、元の交感神経節中には、検出できなかったのに対し、培養条件下での神経細胞中にはすでにVIPと2.7kbアセチルコリン合成酵素に対するmRNAの発現が誘導されていた事があげられる。既に、血清中にアセチルコリンやVIPの合成を高める因子の存在することが示唆されていたが、上の結果は、その因子がLIFと作用が異なる物質である事を示している。そこで次に、VIPのペプチド含量を指標として、活性因子の大きさを分子ふるいカラムを用いて検定した。ラットの血清のタンバク画分を飽和硫安で濃縮後Sephadex Glooで分画した。約80キロダルトンの画分に鋭いVIP誘導活性ピ-クを見出した。LIFのカラムによる分子量値は約45キロダルトンである事より、先のRNAブロッティングの結果と共に,この因子が,LIFとは異なる事を示している。そして現在、更に詳しいその因子の生化学的諸性質を解析中である。この血清中の因子は、副交感神経に特異的な伝達物質(アセチルコリンとVIP)を誘導すると考えられ,副交感神験の分化に重要な役割を果たしている可能性がある。実際、生体内では、NGF,LIFとこの血清中の因子等,複数の因くが、時間的、空間的差異のもとに末分化な神験細胞に作用し、様々な神経伝達物質を部位特異的に誘導させていると考えられる.
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