研究概要 |
アルツハイマ-病は脳にβアミロイドとPHFが蓄積してくることが特徴である。βアミロイドタンパク質前駆体(APP)とタウとよばれるこれらの前駆体タンパク質はそのpreーmRNAの選択的スプライシングに依存した分子多様性(APPについてはAPPー770,751,695,タウについては3ーリピ-トおよび4ーリピ-トタウ)を示す。本年度は、老人脳におけるβアミロイド、PHFの蓄積とそれらの前駆体タンパク質preーmRNAの選択的スプライシングの制御が深く関連するかどうかを、東京都老人医療センタ-連続剖検38例(約115部位)を症例として用いて神経病理学と分子生物学の両面より解析した。脳におけるβアミロイド、PHFの蓄積はそれぞれの特異抗体で調べ、蓄積のないもの、わずかにある、中程度、たくさんあるをー,+,++,+++として区別した。脳より全RNAをグアニジンチオシアネ-ト法で調製した。APP、タウpreーmRNAの選択的スプライシングのパタ-ンは、ヌクレア-ゼS1プロテクション法で解析した。得られた結果を統計学的に解析したところ、APP、タウともにそのパタ-ンは、個人差が大きいことが分かった。APPー770はー,+,++グル-プいずれも、6±3%であり制御の変化は認められなかった。APPー751は、38±10(ー),33±7(+),37±7(++)であった。APP695は57±11(ー),62±9(+),57±9(++)であった。4ーリピ-トタウについては33±8(ー),34±6(+),34±7(++)であった。統計処理の結果、βアミロイド、PHFの蓄積と選択的スプライシングの制御との関係について有意な差は認められなかった。これらの結果より、βアミロイド、PHFの蓄積とそのpreーmRNAの選択的スプライシングの制御は密接に関係していないものと推察される。このように個人差が大きいにもかかわらず、APPー751と4ーリピ-トタウの発現には正の直線関係が認められた。神経細胞の老化と共にAPPー751と4ーリピ-トタウの発現が増大することが考えられる。
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