研究概要 |
痴呆症患者脳には大脳皮質のアセチルコリン(ACh)量が減少していて、記憶の保持および思考能などに障害があると考えられている。本研究では神経活動によって放出されるAChを脳透析法を用いて生理的条件下で測定できるよう方法の改良を行なった。そしてアルツハイマ-痴呆症の治療薬の可能性があるSMー10888を末梢投与し、脳内ACh神経の活動を測定し、この薬物の治療効果への基礎的検討を行なった。脳透析用カニュ-レを麻酔下でラット大脳皮質、線条体、海馬にそれぞれ挿入し、1日後に無麻酔無拘束の状態でRinger液を潅流する。1時間〜2時間潅流後透析液を30分間隔で集め、HPLCーECD法によりアセチルコリンを定量した。尚、潅流液中にはアセチルコリンエステラ-ゼの阻害剤エゼリンは加えていない。SMー10888は生理食塩水に溶解して、1,3,5mg/kgを腹腔内投与した。 1.<basalアセチルコリン放出について>___ー ラット大脳皮質、線条体、海馬のbasalアセチルコリン量は数時間潅流を行なってもあまり変動はなく、また脳各部位間の差も見られなかった。潅流液にエゼリンを使用した場合、basalアセチルコリン量は線条体では大脳皮質の5倍以上も多く、海馬と比べて10倍以上も多い。 2.<SMー10888末梢投与による脳内アセチルコリン放出への影響>___ー タクリンの誘導体で脳移行性の高いSMー10888を1,3,5mg/kg腹腔内投与し、大脳皮質におけるアセチルコリン放出を測定したところ、用量依存的に増加した。一方5mg/kgSMー10888を投与し、線条体と海馬において同様にアセチルコリン放出を測定したところ、両部位ともアセチルコリン放出の増加は大脳皮質に比べて半分程度であった。 これらの結果から、エゼリンの存在する場合と存在しない場合で脳内アセチルコリン放出が脳部位によって異なることが明かとなった。その原因として、線条体内にはアセチルコリン分解酵素が多く、放出させたアセチルコリンのほとんどが分解されてしまうためと考えられる。あるいは大脳皮質でのアセチルコリンの生合成と代謝回転が速いためとも考えられる。
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