研究概要 |
短時間の脳虚血によって脳の一定の部位の神経細胞は不可逆的な損傷を受ける。この虚血に対する脆弱性を、虚血前の操作によって修飾することが可能であろう。ごく短時間の神経細胞壊死をおこさない程度の虚血負荷は、虚血に脆弱な神経細胞に強いストレス応答を発生させる。他の細胞系を用いた実験系では、ストレス応答をおこした細胞が2回目のストレスに対して耐久性になることが知られている。このことから、動物に軽い虚血負荷を加えた上で、2回目の虚血を加えてみる実験を行なった。砂ネズミに2分間の虚血を加え、その1,2,4,7日後に再び虚血を負荷した。2回目の虚血は5分間とし、2回目の虚血の際には体温と側頭筋温(脳温度を反映する)をモニタ-した。対照群としては1回目に偽手術を加え虚血にはしない群を用いた。対照群にも全く同一の5分間虚血を加えた。5分間虚血の7日後に動物を潅流固定し、パラフィン標本を作製した。この標本から、背側海馬CA1領域の長さ1mmあたりの神経細胞密度を計測した。神経細胞密度は正常で254.7±18.6(SD),対照群では10.9±27.4と著明に低下した。一方,2分間虚血の1日後に5分虚血を負荷した群では103.4±93.1,2日目に5分虚血を加えた群では、176.2±93.7,4日目の群では254.7±18.6,7日目の群では98.6±47.6であった。いずれも有意な耐久性を示した。耐久性を示す時期に、代表的なストレス蛋白であるhsp72の抗体による免疫染色を行なうと、耐久性を示す時期に著明な発現が観察された。以上の結果により、ごく短時間の虚血は一過性に神経細胞を耐久性にすることが明らかとなった。この耐久性は虚血後数日間持続するものであった。同時期にストレス蛋白の発現が認められることから、耐久性の獲得なストレス応答を介するものであると考えられた。
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