研究概要 |
我々は、モルモットの大脳皮質から分離精製したSVsを用いてモノクロ-ナル抗体(Mab)を作製し、4種の小胞蛋白(SVPー30,36,38,65)を既に同定した。分離精製したSVsを用いてMabとの免疫反応を電子顕微鏡下で観察し、Mab171B5(SVPー38に対するMab)と反応するSVsと反応しないSVsがある事が解った。SVsのサイズや形とともに、構成成分の違いにより種々のSVsタイプが識別できる可能性が示唆される。分離したシナプス小胞分画から遊離される伝達物質や活性物質を、高速液体クロマトグラフィ-法により解析した結果は複数のアミン類、アセチ-ルコリン、グルタメ-トその他のペプチド類が含まれている事を示していた。この結果、ラットやモルモットの脳組織において、マイクロダイアリシス法によって観察される結果とかなりの程度によく対応していた。これは、当然の事ながら脳全体から分離精製されたシナプス小胞分画には、多種類のSVsが含まれている事を示している。超高分解能走査型電子顕微鏡を用いた分離SVsの観察から、小胞膜にチャネル様構造が存在することが初めて明らかになった。Mabl171B5を用いて免疫組織学的に、脳の発生に伴うシナプス形成の変化を検索したり、無神経節腸管での神経叢や平滑筋のシナプス形成の欠如の解明にも成功している。腸管神経節での検索から、Mabl171B5(SVPー38の抗体)とMabSY38(synap tophysinの抗体)では免疫組織学的な反応に大きな差異がある事が解った。Mab171B5等のモノクロ-ナル抗体をシナプス前部に注入する実験も試み、抗体注入によりシナプス伝達が抑制される傾向が、電気生理学的に認められたが、作用を確定するまでには更なる実験の継続が必要であると思われる。蛍光分光学的観察には、ロッキイン・アンプの組み込みによる感度の更なる向上や、寿命のより長い蛍光プロ-ブの開発が必要である事が解った。新しい小胞蛋白質であるSVPー38が、シナプス伝達に関与している事を確立するには、この様な改善とそれに関連する更なる研究の継続が早急に望まれる。
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