研究概要 |
この研究の目的は,災害の変貌を通じて近代化にともなう環境の変化を明らかにすることにある.環境には自然環境ばかりでなく,社会環境も含めて考え,本年度は,その第一歩として,地震による人的被害の変遷と,火山災害の最近の事例を通じた検討を行った. 地震災害による人的被害では,明治期以降に,死者10人以上もしくは全損戸数300以上を出した地震を取り上げ,死者1人あたりの全損戸数(HD値)の変化を考察した.その結果,(1)HD値には上限と下限があり,(2)それらは上昇しており,現在では明治時代よりも一桁以上数値が大きくなっていること,(3)火災や津波が発生すると,死者が出やすいこと,(4)死者1,000人を越す地震が1940年代に続発しているが,それ以降は死者100人を越えるのは,津波による死者を出したチリ地震津波と日本海中部地震しかない,ことなどが得られた.しかし,施設の耐震性の向上が死者を大幅に減少させている一方で,土砂災害による死者の発生は防げていないこと,人の動きが激しくなり,それにともなって被害を受ける機会が増えていること,などの被害態様の変化傾向が指摘できた. 火山災害では,鹿児島市東桜島地区有村町と三宅島の調査事例をもとに,現代における近代化による外的変化の影響を受けながら,火山噴火災害にともない,地域社会が変貌していく過程を考察した.有村町では,降灰被害と同時に,農業の崩壊と高齢化・過疎化が進行して,集落の存立基盤が崩れ,伝統的農村社会が衰微していった.そのため,防災営農対策をはじめ各種の災害対策がとられたが,住民は,島外移住もやむなしとする態度に変化し,集落は崩壊へと向かった.しかし,地域に最適な被害対策がとられ,地域振興対策に結び付いていたか,ということには多少の疑問が残った.三宅島の場合は,有村町よりも集落の存立基盤がより強固であったため,表面上は順調に復興しつつある.
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