研究概要 |
本研究の目的は,地球中心核を通過する短周期実体波を用いて,内核境界近傍の地震波速度構造を推定し,内核境界で起っている物理プロセスを把握することである。本年度は,本研究の目的に最も適している短周期群列地震観測デ-タを収集することと,既に収集した日本全国の地震波デ-タから内核のQ値を推定することを行った。 本年度から始めた短周期群列地震観測デ-タの収集は,東北大学北上地震観測所の群列地震観測網で行っている。この観測網は直径約20kmの範囲に10点の観測点を擁している。我々は2台のパ-ソナルコンピュ-タを用いて,波形デ-タを連続に100Hzのサンプリングレ-トで収集するシステムを開発し,設置した。この観測網のデ-タ伝送装置(既設)はFM方式であるためダイナミックレンジが40dBしかなく,システム全体の中で最も弱点となっている。デ-タの集積を持つのと同時に,この点を改良し,今後より良質のデ-タを収集する努力を行う予定である。 本年度行った解析は,日本全国に広がる気象庁の高感度地震観測網と松代群列地震観測網のデ-タを用いて、内核境界直下のQ構造を推定した。従来から実体波を用いた内核のQの推定法には,PKP波とPKIKP波の振幅比による方法とスペクトル比による方法がある。このうちスペクトル比による方法ではQが周波数に依存しないと言うことが前提条件になっている。本研究では松代群列地震観測網のデ-タからこの前提条件が必ずしも成り立っていないことを示した。また、内核境界直下のQ値は内核境界下約300kmで急激に大きくなっていることを明らかにした。上記の結果には、核マントル境界の構造が大きく影響し,今後内核境界近傍の構造とともに,核マントル境界の構造も詳しく研究する必要があることが明らかになった。
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