研究概要 |
1.ラダ-ポリシランの異常挙動を調べる目的のもとに、デカイソプロピルトリシクロ[4.2.0.0^<2.5>]オクタシランを1,1,2,2ーテトラクロロー1,2ージイソプロピルジシランと1,2ージクロロー1,1,2,2ーテトライソプロピルジシランの交差カップリングによって合成した。この化合物にはアンチおよびシン体の立体配座異性体が存在するが、分取液体クロマトグラフィ-を用いて、これら異性体の単品を得た。なお、両異性体は空気中で安定である。 2.アンチおよびシンの立体配座はX線結晶構造解析により定めた。アンチおよびシンの間で、若干構造パラメ-タ-に違いが見られた。たとえば、両異性体において、トリシクロ環形成する3個の四員環は折れ曲がった構造をとっているが、それらの折れ曲がりの程度(二面角)はアンチ体よりもシン体において小さい。また、シン体におけるケイ素ーケイ素結合距離の平均値はアンチ体における値よりも大きい。これらの傾向は、シン体において置換基(プロピル基)の立体反発が大きいとして説明される。 3.アンチ体は無色であるが、シン体は黄色結晶性固体である。紫外・可視スペクトルにおいて、アンチ体の最長波長吸収極大は355nmに現れるが、シン体では400nmに移動する。これはケイ素ーケイ素σ結合系において立体配座の違いにより吸収極大の位置が変化する最初の例であり、今後この遷移エネルギ-の変化に関する理論的考察を行う予定である。 4.トリシクロオクタシランは対応する炭素化合物よりも熱安定性が高い。すなわち、炭素化合物の環開裂による異性化は140℃付近でも生起するが、トリシクロオクタシランでは190℃以上に加熱されてはじめて、シン体はアンチ体に異性化することがわかった。なお、アンチ体からシン体への異性化は起こらなかった。
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