研究概要 |
ビスマスは金属と非金属との接点に位置するニクトゲン元素として非金属性が乏しいため,これから導かれる有機金属化合物は他のニクトゲン元素の場合には見られない特殊な擧動を示すことが多く,特に官能基選択の高い反応を穏やかな条件で行ないやすいという大きな特徴をもつている。今年度はビスマスイリドとビスマスイミンの化学性に焦点を絞つて,反応の選択性な反応擧動の多重性を検討した。ビスマスイリドについてはジメドンから誘導された安定型イリドのX線結晶構造解析に初めて成功し,ビスマスー炭素イリド結合が二重結合ではなく,極性単結合に近い性格をもつことや,ビスマス原子とカルボニル基の酸素原子との間の弱い相互作用がイリド の安定排に寄与しているらしいことを確認した。また一連の準安定型イリドや不安定型イリドについても,その反応性を検討した。ビスマスイミンについては古い文献の追試を行なってその内容の訂正を行なうとともに,安定型ビスマスイミンの物理化学的性質や反応性を体系的に調べてその化学性を初めて明らかにすることに成功した。とくにナイトレノイド等価体としての可能性を期待して各種の捕捉実験を行なつたが,予想した生成物は得られず,その実証には失敗した。現在,かさ高いアルキル基による立体保護や,ビスマス原子をヘテロ環構成要素として組み込むことによる安定化を利用した,空気中でも安定なジビスムチン,ヒドロビスチン,アルキルビスムチンなどの合成の試み,およびビスマス原子の大きな原子量と有機ビスマス化合物の無毒性に着目した血管造影剤としての展開を目指した水溶性有機ビスマス化合物の合成の試みなどを始めており,その展開について有望な感触を得ている。
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