研究概要 |
天然にはがん細胞に対して顕著な毒性を示す化合物が多数存在するが,我々はこれら細胞毒性を有する天然物のうちで,近年単離された,アミノ酸を構成成分とする,特異な骨格を有する化合物に着目して,それらの構造と機能の相関を突明することを企画した。具体的な天然物としては,海洋動物であるホヤ,アメフラシなどの産生するペプチド類,ならびに肺炎カン菌の産生する,アンスラマイシン系抗生物質と同一のピロロ[1,4]ベンゾジアゼピン骨格を有するティリバリンを取りあげた。すなわちこれらの生理活性天然物を,安価かつ大量に入手し得るαーアミノ酸を構築素材として効率的な合成法を開発し,ついで合成品を用いて構造と細胞毒性の相関を突明し,新規制癌薬を設計することを目標とした。 まずホヤやアメフラシの産生する種々の環状ペプチドを合成し,そのうちユリチアサイクラマイドならびにユリサイクラマイドについて毒性発現機構を検討したところ、前者においては蛋白質の生合成を最も阻害し,後者においてはDNAの生合成を最もよく阻害することが明らかになった。ついでアメフラシが産生し,強力な細胞毒性を有し,現在アメリカで制癌薬としての発場が期待されているドラスタチン10の合成研究を行った。まず各フラグメントを効率的かつ立体選択的に合成した後,各フラグメントをC末端より順次結合して,最終的にドラスタチン10の全合成を完成した。我々の合成方法は,大量合成や類縁体の合成に向く方法である。今後はこの合成手法を駆使して種々の類縁体を合成し,構造と活性の相関研究を行い,活性発現構造の特定化を目標としたい。 一方ティリバリンについては,新規Mannich反応を開発しそれを用いて全合成に成功しているが,今回同様手法を用いて種々の類縁体を合成した。生物活性発現構造の特定化を今後の課題としたい。
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