研究概要 |
Fe/Cr人工格子の試料について,50%に及ぶ巨大磁気抵抗が発見された。Fe/CrはFe膜内の平行に揃ったスピンが,外部磁場により反強磁性配列から強磁性配列に転移する。この過程に伴って巨大磁気抵抗効果は生じており,スピン方向に分裂した電子ポテンシャル散乱と関連して,多層膜特有の伝導電子散乱現象であるので注目されている。 我々は,この試料について熱電能の磁場効果を測定した。熱電能についても,磁気抵抗の場合に対応した磁場について,明らかな磁場効果が観察され,磁気抵抗のみではなく更に一般的に多層膜特有の伝導電子散乱が起っていることが確認された。磁気抵抗についてはその符号は常にマイナスであったが,熱電能についてはその符号が温度により変化し,4.2〜50Kまではプラス,50〜120Kではマイナス,120K〜室温では再度プラスと符号を変え,その大きさは80Kにおいて約ー10%,250Kにおいて+15%であった。これは伝導電子のスピン散乱構構が栄一のものではなく,2つ又はこれより多数のスピン散乱機構が意合しており,その符号と温度変化が異なるために,その総和としての熱電能の符号が温度変化するものと解釈できよう。多層膜中の伝導電子は明らかに人工格子の周期よりも大きな休束になって散乱を受けており,人工格子による電子物性の制御・設計に至る入口となる可能性があり,更に研究する必要がある。
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