研究概要 |
本研究は、随意運動の発現と制御のための神経過程において大脳基底核がどのような役割を担っているのかを明らかにすることを目的として行った。方法:サルをオペラント条件づけして一連の順序に従った腕の運動を行わせた。その際、一連のボタン押し運動を(1)光ランプの指末によって、(2)運動開始のタイミングは外界からの指示なしに動物自身の意志で、(3)運動の順序を短期的な記憶情報なもとづいて行うよう3のの運動課題を用いた。運動課題を行っている時の大脳皮質の被殻及び尾状核の単一ニュ-ロン活動を記録した。一連の押しボタン運動課題を行っている時の腕の運動の軌跡と運動に関与する筋肉の活動パタ-ンも記録し、調べた。結果:3つの運動課題を行うに際して、運動の速度や反応時間、遂行時間に定量的な違いは見られたが、運動の軌跡や筋活動のパタ-ンには類似性が非常に高く、基本的には同一であると考えられた。被殻より151回、尾状核より64個の単一ニュ-ロンの活動を記録した。被殻のニュ-ロンは運動自身に関連するもの(44%),運動の予期(8%),準備(12%)や運動の順序の記憶(6%)などに関連して活動することが判明した。尾状核のニュ-ロンの記録はまだ少ないが、運動に関連するニュ-ロン(40%)よりも、運動の予期や記憶はどの認知的な機能に関係すると考えられるニュ-ロン(60%)の方が多かった。これらの被殻・尾状核のニュ-ロンの約2/3は感資刺激に依存する運動,自己活動性の運動,記憶に基づく運動のいづれかに選択的に強く活動することが解った。すなわち、線条体ニュ-ロンの多くは、発現されるべき運動の軌跡や筋の活動パタンの決定に関与するのではなく、運動の発現様式(感覚刺激依存的に,記憶依存的に、自分の決めたタイミングで等々)を決定することに関与する可能性が示唆される。
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