大脳基底核が運動制御にはたす役割を考えるとき、大脳皮質ー被殼ー淡蒼球の系の機能的な連絡関系の解明が重要な要素である。はっきりした結論を得るためには、生理学的に同定した機能単位間で、線維連絡がどの様になっているかを生理学的方法と解剖学的方法を組み合わせた研究によって明らかにしていくことが必要である。平成2年度からの本重点領域研究の発足にともない、まずサルの被殼での体部位局在の詳細をシステマチックに調べて、機能単位の3次元的な全体像を明らかにすることから始めた。サルは、無麻酔慢性実験の条件下で実験室内でおとなしく体性感覚刺激検査や微少電流刺激を受けるよう訓練した。被殼の単一ニュ-ロンのスパイク発射を記録し、サルの特定の体部位に対して体性感覚刺激を行い活動の変化を調べて関係体部位を同定した。さらに、同じ電極で微少電流刺激を行い誘発される運動を調べた。電気刺激の結果をまとめてみると、被殼の一つの前額断面には背側から腹側にかけて、下肢に関係した領域、上肢に関係した領域、口に関係した領域がはっきりと分かれて並んでいる。さらに、たとえば上肢領域の中には単一関節の運動(たとえば手首、手指、肘など)が起こる小領域がそれぞれ腹背側、内外側に500ミクロンないし1000ミクロンの範囲に広がっている。このひとつの関節に関係した小領域は吻側尾側方向でみると5ないし6ミリにおよぶ各前額断面にみつかり、全体として吻側尾側方向に細長く伸びた不定形の領域を作っていることがわかった。体性感覚刺激検査法によって調べると、この微小領域内の細胞は、電流刺激によって運動の起こる関節を受動的に動かしたときに応答した。以上のように、被殼でのひとつの関節に関係する機能単位は、淡蒼球で見つかったような吻側尾側には薄い機能単位ではなく、逆に吻側尾側に細長い機能単位であることがわかった。今後、被殼のこの機能単位と、淡蒼球の機能単位がどの様な解剖学的対応関係を持つか、被剖の細長い機能単位と大脳皮質の諸領野からの投射の関係がどのようになっているかを調べる。
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