研究概要 |
1.神経細胞の膜輸送系におよぼすガングリオシドの効果について,神経芽細胞腫の培養細胞株を用いて解析するための,ひとつのアプロ-チとして,糖脂質合成酵素阻害剤threoーPDMP(1ーphenylー2ーdecanoylaminoー3ーmorpholinoー1ーpropanol)の添加培養による糖脂質生合成の阻害と,培養細胞におよぼす効果を検討した. 2.マウス神経芽細胞腫の培養細胞株,NSー20Yについて,代謝標識により糖脂質生合成の解析を行った結果,PDMP(50μM)の添加によりガングリオシドの生合成は著しく阻害され,細胞膜糖脂質の量的変化を生じさせ得ることがわかった.ガングリオシド,中性糖脂質への ^<14>Cガラクト-スの取り込みは,PDMPの存在により,それぞれ対照の12%,20%に減少した.PDMP添加24時間後では,細胞の中性糖脂質,ガングリオシドの存在量はそれぞれ32%,57%に減少した. 3.神経芽細胞の増殖はPDMPによって濃度依存的に抑制されたが,低濃度ではその効果は細胞傷害的ではなく,可逆的であり,培養細胞系で細胞膜糖脂質のレベルを人為的に制御し得る可能性が示された. 4.(1)神経芽細胞をserumーfree medium中で培養したときに起こる神経突起の伸展が,PDMPの存在によって強く抑制される現象がみいだされ,糖脂質生合成が神経突起の伸展に必要である可能性が示された. (2)PDMPによる神経突起の伸展の抑制は可逆的であり,またPDMPはすでに伸展した神経突起に対しても,その退縮をひき起こす効果を示すことが明らかとなり,その作用機序が興味ある問題点となった. (3)神経芽細胞をあらかじめGM1ガングリオシドを添加して培養することによって,PDMPによる神経突起の伸展の抑制が部分的に解消された.
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