研究概要 |
新生児マウス(Balb/C)の背部皮膚から得られたケラチノサイは、低Ca2+培養液(0.05ー0.1mM)から正常濃度(1.2mM)にまでCa2+を上昇させると分化(角化)を誘導し,cornified envelope形成やトランスグルタミナ-ゼの活性化が起こる。このCa2+シフトによる分化誘導系のシグナル伝達における生化学的変化を検討したところ、Ca2+シフト後1分間にイノシト-ル1,4,5ートリスリン酸(IP_3)の一過性の上昇が起こり,細胞内遊離[Ca2+]iの増大が生じることが示された。 また各種ガングリオシドGq1b,GM1,GT1b,GD1b,Gqをケラチノサイトに添加すると、GQ1bのみに濃度依存的な[ ^3H]チミジンの取り込みの抑制が生じた。10時間後には約40%程度に減少するが、これは1α,25(OH)_2D_3の場合とほぼ同程度であった。なお,この際にトランスグルタミナ-ゼに活性上昇が開始し、時間経過とともにその活性が増大し、cornified envelope形成をきたす。初期応答としては、IP_3産生に一致した[Ca2+]i上昇が起こるが、その大部分は滑面小胞体からの動員に由来する。マウスケラチノサイトはTPAで分化誘導されることが知られており,プロテインキナ-ゼ(PKC)の関与が重要視されている。そこで,あらかじめホルボ-ル誘導体(PdBu)で長時間処理してPKCをdownーregulationさせたり、また、Hー7でPKCを阻害すると、VD_3やGQ1bによるcornified envelopeの形成およびトランスグルタミナ-ゼの活性化は共に抑制されたことから,細胞膜受容体を介するGQ1b刺激の際にPKC活性化が必要であることが明らかにされた。ケラチノサイトのPKCの同定を各種アイソザイム(α,β,γ)の特異抗体を用いてWestern blotを行ったところ,α型が主成分であることを明らかにしたが、最近nPKCがケラチノサイトに特異的に多く発現していることが示され、このタイプの分化における意義が注目される。
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