研究概要 |
ヒトがんの診断治療あるいは予防対策を考えるには,ヒトがんの発症メカニズムについての直接的研究は重要である。この観点からATLの原因ウィルスであるヒト白血病ウィルス(HTLVー1)について研究を進めた。HTLVー1はpX領域に少なくとも2つの調節遺伝子,taxとrexを持ち,自らの増殖を調節している。taxは転写活性化因子でウィルスのプロモ-タ-の他にILー2RαやPTHrPなどの細胞遺伝子の発現も活性化する。しかしこれらのプロモ-タ-の活性化には異なる転写因子が関与することが昨年度までの研究で予想された。今年度は,ウィルスプロモ-タ-の活性化に必要な21塩基エンハンサ-に結合する細胞蛋白(TREB)3種について検討し,次のことを明らかにした。(1)TREBー5,ー7,ー36共にロイシンジッパ-構造を持ち,2量体を形成して21塩基エンハンサ-に結合する。(2)いずれもmRNAレベルでは多くの細胞株に発現しており,細胞特異性はない。(3)TREBー5はLTRーCATの発現をエンハンサ-特異的に活性化したが,TREBー7とー36は全く効果を示さなかった。(4)TREBー36は別の細胞系ではエンハンサ-非特異的に遺伝子発現を阻害した。このようなことから,TREB蛋白は細胞特異的に活性化・抑制と両方の効果を与え得る転写因子であると結論された。この転写因子とtax蛋白の相互作用について目下検討中である。また,tax蛋白の作用様式を検討する目的でGAL4DNA結合部位との融合蛋白を作成したところ,融合蛋白はDNA結合部位に依存して遺伝子発現を活性化した。したがってtax蛋白はTREBのようなDNA結合蛋白を介して間接的にDNAに会合して,初めて転写の活性化を行うことが確からしくなった。他方,pX遺伝子の1つであるrexの機能について検討し,rexは非スプライス型RNAの核輸送のみではなく,核内においてスプライシングに先立つプロセスに作用する知見を得た。これをHIVのrevと対比して検討している。
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